1. はまに ころがって くる 魚って、どんな 魚?
1. 浜に転がり込んでくる魚は、どんな魚なのか
1. 浜の砂利に乗り上げる魚:シシャモとの区別と産卵の様子
カペリンと いう 魚が います。ししゃもに にて いるので、日本では 「からふとししゃも」と よばれる ことが あります。スーパーの ししゃもの おおくは、この 魚だそうです。
産卵の ころに なると、この 魚は 北の うみの 岸に あつまります。すなや こまかい じゃりの はまに、ころがる ように のりあげ、おすと めすが 白い ものと 卵を だします。卵は すなの つぶに くっつきます。
ほんとうの ししゃもは、北海道の たいへいようがわに だけ すむ 魚で、川を のぼって うむ と いわれます。スーパーの ししゃもの おおくは、これとは べつの 魚です。
北海道立総合研究機構の資料などによれば、本物のシシャモは北海道の太平洋岸にしかすまない魚で、産卵のために川をさかのぼります[1]。一方、スーパーでよく見るカラフトシシャモは別の種です。
カナダ水産海洋省(DFO)の解説では、カペリンは産卵期、砂や細かい砂利の浜へ転がり込むように来て、雄と雌が精子と卵を放ちます。卵は砂利の粒にくっつきます[2]。波打ち際で魚が体をくねらせて産む様子は、想像するだけでも迫力があります。
では、いつ産むのか。DFOによると、産卵は夜や満潮のときに多く、陸に向かって吹く風や月の満ち欠けも時期に関係すると「考えられている」段階です[2]。理由までは書かれていないので、ここでは「そう考えられている」と受けとめておきます。
ところで、カペリンの産卵場所は、浜だけなのでしょうか。
本来のシシャモは北海道の太平洋岸に限られて分布し、産卵のために河川を遡上する。流通名「ししゃも」の多くを占めるのはカラフトシシャモで、別種である[1]。
DFOの種解説によれば、カペリンの浜での産卵は、砂または細かい砂利の浜に魚が転がり込み、雄と雌が精子と卵を放出する形をとる。卵は砂利の粒に付着する[2]。このため、産卵場所は水際の基質(砂・砂利)が条件になる。
産卵の時刻や時期については、夜と満潮に多く、向岸風や月相が日付に影響すると「考えられている」と書かれている[2]。原因まで検証された事実としてではなく、観察にもとづく推定として扱うべき記述である。
では、浜でしか産まないのか。実際には、沖の海底を使う群れが知られている。この二つの場所を、何が分けているのか。
2. はまと 海の そこ、どっちで うむか、どうやって きめるの?
2. 浜と沖の海底は、何を手がかりに使い分けられるのか
2. 浜か沖の海底か:産卵場所の選択と水温の関わり
カナダの ひがしの ニューファンドランドと いう ところでは、カペリンは 二つの ばしょで うみます。ひとつは はま、もうひとつは 少し おきの 海の そこです。
ここで 大じな 手がかりは、水の あたたかさだと 考えられて います。この 魚が 産卵する のは、だいたい 2℃から 12℃の 間の 水です。つめたすぎても、あたたかすぎても、うまなかったと いわれて います。
七月の はじめは、おきの そこが まだ つめたすぎるので、はまで うみます。はまが 12℃を こえて あたたかく なると、つめたい 海の そこで うむように なります。この 場所では、水の あたたかさと、うむ ばしょの えらびかたに、つながりが ありそうです。
ただし、水の あたたかさ「だけ」で きまるとは かぎりません。ほかにも 手がかりが ある かもしれません。
カナダ東部のニューファンドランドでの調査では、カペリンは浜と、沖の水深15〜40mほどの冷たい海底の、二つの場所で産卵していました[3]。産卵が行われたのは約2〜12℃の範囲で、2℃を下回る場所や、12℃を超えた状態が続く場所では産んでいなかったと報告されています[3]。幅は10℃ぶん、つまり「冷たすぎも、暖かすぎもしない」範囲です。
この範囲が、場所の使い分けにつながります。7月初めは、沖の海底がまだ冷たすぎるため、浜で産みます。浜が12℃を超えて暖かくなると、冷たい沖の海底で産む場面が増えます[3]。DFOも、産卵場所は主に水温で選ばれ、浜が12℃を超えると沖の海底での産卵が増えると説明しています。沖の産卵場所は水深40m未満の、砂や細かい砂利の海底で、浜より冷たく、塩分が高いとされます[2]。
この調査地では、浜と沖の海底の産卵場所の利用が水温と関連していたと読めます。ただし、水温だけで決まると断言するのは行き過ぎで、ほかの条件も関わっている可能性があります。
では、浜と海底では、生まれてくる子の育ち方もちがうのでしょうか。
Crookらによるニューファンドランドの研究は、カペリンの産卵が浜と、水深15〜40mほどの冷たい沖の海底の二か所で起こると報告した。産卵は約2〜12℃の範囲に限られ、2℃未満の場所や12℃超が続く場所では産卵が見られなかった[3]。この数値は検索で得た要旨にもとづくため、論文本文で細部を照合する余地が残る。
この温度範囲が、調査地での場所の入れかわりと関連していた。7月初めは、深い水がまだ冷たすぎるため浜が使われる。浜の水温が12℃を超える状態が続くと、冷たい深場に産卵が移る[3]。DFOの解説も、産卵場所は主に水温で選ばれ、浜が12℃を超えると沖の海底での産卵が増えるとし、沖の産卵場所を水深40m未満の、砂または細かい砂利で塩分の高い、より冷たい海底としている[2]。
浜と沖の水深の数字(15〜40mと40m未満)が資料ごとに少し異なる点には注意が要る。調査地や定義の差が考えられ、細部はそれぞれの原典に当たる必要がある。また、水温がすべてを決めるとは書かれていない。
では、場所のちがいは、卵や子にどのような差を生むのか。
3. はまの 卵と 海の そこの 卵は、おなじ はやさで そだつの?
3. 浜の卵と沖の卵では、子が出てくるまでの日数がちがう
3. 産卵場所のちがいが、卵の発生期間に与える差
うみの そこは、はまより つめたいと されて います。DFOと いう カナダの やくしょの せつめいでは、はまの 卵からは、うんでから 二、三しゅうかん たつと、小さな 子の 魚が でて きます。おきの 海の そこの 卵は もう 少し ゆっくりで、四しゅうかん いじょう かかると 書かれて います。
二、三しゅうかんは、14日から 21日ほどです。四しゅうかんは 28日なので、すくなくとも 一しゅうかん くらいは おそい ことに なります。
水が つめたいと、そだつのに じかんが かかる のかも しれません。ただし、その りゆうまでは 書かれて いません。
DFOの解説には、卵からの仔魚の出てくる時期が書かれています。浜の卵は産卵の2〜3週間後、沖の海底では4週間以上たってから孵化します[2]。2〜3週間は14〜21日、4週間は28日なので、少なくとも1週間ほど、沖のほうが遅いことになります。
水温が低いほど、卵の発生は一般にゆっくり進みます。ただ、ここで読んだ資料は、この日数の差の理由を直接説明してはいないので、「冷たい沖は遅い」という事実と、水温の影響という推測は分けて受けとめるのが安全です。
浜に産むのは、卵がすぐに孵るぶんだけ早く旅立てる方法とも言えますが、これも資料にある理由ではなく、私たちの想像にとどまります。
ところで、日本の近くではなく、もっと北の海のカペリンは、どこへ産みに行くのでしょうか。
DFOによれば、仔魚が出てくるのは浜では産卵の2〜3週間後、深い産卵場所では4週間以上後である[2]。日数に直せば14〜21日と28日以上で、差は最低でも1週間、おおむね1〜2週間以上になる。
この差は、発生速度に影響する水温のちがいが一因だろうと推測できるが、DFOの記述は日数の差の原因を述べていない。したがって、冷たい海底ほど発生が遅いという観察と、水温が原因であるという因果は、区別して読む必要がある。
また、浜は波や潮の影響を受けるため、産卵後の魚が波で取り残される例がある。浜で産んだ後の死亡率が高く、とくに雄で高いとされる[2]。雄は産卵後に死ぬことが多い一方、雌は別の年に再び産むことがあり、全個体が死ぬとは限らない。群れや産卵場所で差があるからである。
では、ほかの海のカペリンも、同じ行動をとるのか。
4. もっと 北の うみの カペリンは、どこで うむの?
4. 北の海の群れは、ほとんど沖の海底で産む
4. バレンツ海とアイスランド:産卵の旅と、産んだあとの運命
ノルウェーの きたの バレンツかいでは、カペリンは 一月から 二月ごろ、岸に むかいます。そして 20mから 60mの ふかさの 海の そこで うみます。
アイスランドの まわりでは、十二月から 一月に 旅が はじまり、三月の おわりから 四月の はじめに かけて、あさい 海の そこで うむと されて います。
これらの 群れは、うみおわると、まもなく 命を おえる ことが おおいと 書かれて います。みじかい 時間で うむ ことに、ぜんりょくを 出して いるのでしょう。
ノルウェー海洋研究所(IMR)によれば、バレンツ海のカペリンは、1〜2月に岸へ向かい、ノルウェー北部のトロムスやフィンマルク、ロシアのコラ半島の沿岸で産卵します。産む場所は水深20〜60mの海底です。産んだあと、まもなく命を終えます。多くは3〜4歳で産卵を迎え、寿命が5年を超えることはまれです[4]。
アイスランドのカペリンは、12月から1月に産卵の旅を始め、北から南東へ、時計回りに岸ぞいを進むとされます。産卵は主に3月後半から4月前半、浅い沿岸の海底で行われます。産卵後の生存率は非常に低く、実務上はゼロとして扱ってよいとされ、多くは3歳で産卵します[5]。
浜か海底かという選択は、場所と季節で姿を変えます。浜は夏の暖かい時期、海底はより冷たい時期や深場で使われ、バレンツ海やアイスランドでは海底が中心に見えます。
こうして一斉に岸へ来る魚の群れは、海の中の他の生きものにとって、どんな存在なのでしょうか。
IMRの解説では、バレンツ海のカペリンは1〜2月に沿岸へ向かい、トロムス、フィンマルク、コラの沿岸の水深20〜60mで産卵する。産卵後まもなく死ぬ一回繁殖型(semelparous)で、5年を超えて生きることは少なく、多くは3〜4歳で産卵して死ぬ[4]。
アイスランドでは、産卵回遊が12〜1月に始まり、北から南東へ時計回りに沿岸を進む。産卵は主に3月後半〜4月前半、浅い沿岸の海底で行われ、産卵後の生存率は実務上ゼロと見なせるほど低い。大半は3歳で産卵する[5]。
これらを前章の知見と合わせると、浜での産卵は暖かい海域・時期に、沖の海底での産卵は冷たい条件に偏る傾向があり、北の群れでは海底が主な場所になっていることが読み取れる。ただし、これは複数の資料からの整理であり、各海域の水温と産卵場所を直接並べて検証した結果ではない。
なお、産卵後に死ぬか、次の年にも産むかは、群れによって異なる。ニューファンドランドの浜では、雌が別の年に再び産むことがあるとされる[2]。この点は、バレンツ海やアイスランドの記述と食いちがうように見えるが、地域によって産卵後の生き残り方が異なる可能性がある。
これほど多くの魚が一斉に岸へ寄ることは、海の食物網にどんな意味をもつのか。
5. 岸に あつまる 魚は、ほかの いきものにも たいせつ?
5. 岸に集まる群れは、海の生きものの食べ物になる
5. 餌としてのカペリン:岸に集まることの海の食物網への意味
カペリンは、大きな 魚や ほかの いきものの 餌にも なります。バレンツかいでは、タラが とくに たくさん たべます。ハープアザラシや、鯨の なかま、うみどりも たべると 書かれて います。
つまり、カペリンが 岸に あつまる ことは、タラや うみどりなど、海の いきものたちの 食べものが ふえる 出来事でも あります。
なぜ 魚が いっせいに あつまって うむのかは、ここで 読んだ ほんには 書かれて いませんでした。わかって いない ことが、まだ 多いのです。
カペリンは、海の食物網で大切な「餌の魚」とされます。DFOも、この魚を重要な餌の種と呼んでいます[2]。IMRによると、バレンツ海ではとくにタラが大量に食べ、ハープアザラシやいくつかの鯨類、海鳥なども食べます[4]。
岸に群れが集まる産卵期は、こうした捕食者にとって、餌が一か所に増える機会と考えられます。ただし、これは資料の記述から導いた推測で、産卵期に捕食者が実際にどれだけ集まるかを示すデータは、ここでは読んでいません。
では、そもそもなぜ群れで集まって産むのでしょうか。群れで産む利点は、ここでは分かりません。「分かっていないこと」として残しておきます。
カペリンは、海の食物網の餌種(forage species)とされる。DFOは重要な餌の魚と位置づけ[2]、IMRはバレンツ海でとくにタラが多く食べ、ハープアザラシ、数種の鯨類、海鳥、他の魚も利用すると述べる[4]。
産卵のための岸への集合は、群れが沿岸に密になる時期である。捕食者から見れば餌が集中する機会になりうるが、産卵期にどう集まるかは、まだ説明が閉じていない領域だ。
残る問いは、なぜ群れで産むのかである。群れで産むことの利点は、ここでは分からない。水温による場所の使い分け(第2章)と、産卵後の死亡(第3・4章)が観察されている事実の側であり、「なぜ集まるのか」の理由はまだ説明が閉じていない領域だ。
6. ししゃもの ふくろを 見て みよう
6. 家で、売り場の「ししゃも」から調べてみる
6. 売り場の表示から、原典まで
きょう できる こと
おうちの ひとと スーパーに いったら、「ししゃも」の ふくろを 見て みましょう。魚の なまえや、どこの うみで とれたかが 書いて あるかも しれません。「からふとししゃも」や カペリンと 書いて ある ものが あれば、この 記事の 魚です。
ちずで、ノルウェーや アイスランド、カナダが どこに あるか さがすのも おもしろいです。魚が あつまる のは、どんな 北の うみなのでしょう。
売り場で探す
家の人とスーパーに行ったら、「ししゃも」の袋の表示を読んでみましょう。魚の名前(「カラフトシシャモ」と書いてあるものもあるかもしれません)や、とれた海の名前が載っているか確かめます。この記事の魚かどうかが分かるかもしれません。
地図で探す
本文に出てきたニューファンドランド、バレンツ海、アイスランドを地図帳で探してみましょう。どれも北の寒い海です。そこで魚が浜や海底に集まる様子を思い浮かべると、水温の話が実感しやすくなります。
もっと知りたくなったら
地図帳で3つの海を見比べて、いちばん北にある海を探してみましょう。冷たい海ほど、産む場所や季節がどう変わりそうか、予想を立てるのも楽しい観察です。
売り場の表示で確かめる
流通名「ししゃも」の袋に、魚種名(カラフトシシャモ、カペリンなど)や漁獲海域が表示されているか確認できる。本文の整理(第1章)が、実際の商品でどう現れているかを見られる。
原典に当たる
産卵場所と水温の関係はCrookら[3]とDFOの解説[2]、バレンツ海の産卵はIMR[4]、アイスランドはFAOの資料[5]にある。日本語で書かれたシシャモとカラフトシシャモの区別は、北海道立総合研究機構の資料[1]で読める。本記事の数値は要旨や解説にもとづくものがあるため、論文本文で細部を照合してから使うのが望ましい。
次の問いとして、浜の水温が変わると産卵場所の使い分けがどう動くのか、という問題が残る。まだ、ここでは扱っていない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 北海道立総合研究機構 水産試験場資料(シシャモの資源管理). https://www.hro.or.jp/upload/41180/dayori973sisyamokanri.pdf (シシャモとカラフトシシャモの区別)
- Fisheries and Oceans Canada. Atlantic Capelin. https://www.dfo-mpo.gc.ca/species-especes/profiles-profils/capelin-capelan-eng.html (浜での産卵、水温と場所の選択、子の出てくる時期)
- Crook, K. A. et al. ICES Journal of Marine Science 74(6): 1622 (2017). https://openpolar.no/Record/croxfordunivpr:10.1093%2Ficesjms%2Ffsx023 (産卵が行われる水温の範囲、浜から沖の海底への移りかわり。要旨にもとづく)
- Havforskningsinstituttet (IMR, Norway). Capelin in the Barents Sea. https://www.hi.no/en/hi/temasider/arter/lodde--barentshavet (バレンツ海の産卵と、餌としての役割)
- Vilhjálmsson, H. Icelandic capelin. FAO. https://www.fao.org/4/X6850B/X6850B21.htm (アイスランドの産卵の旅)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。