1. やまの ワシは、なにを たべるの?
1. 山のワシの食卓には、ノウサギとヤマドリとヘビが並ぶ
1. イヌワシの食べものは、ノウサギ・ヤマドリ・ヘビ類が中心
やまで くらす イヌワシは、はねを ひろげると 2メートルぐらいに なる ことも あります[1]。
たべる ものは、ノウサギ、ヤマドリ、ヘビです。カモシカや シカの 子ども、テンを つかまえる ことも あります[1]。
あきたの どうぶつえんの かいせつでは、いちばん おおいのが ノウサギ、つぎが ヤマドリ、そして アオダイショウと されて います[2]。
イヌワシの つがいは、ひろい 山を じぶんたちの 場しょに します。ひろさは へいきんで 60へいほうキロメートルほど。一へんが 7.7キロメートルぐらいの 四角と おなじです[1]。
では、うみの ちかくに すむ ワシは、なにを たべるのでしょう。
日本の山で暮らすイヌワシは、翼を広げると168〜213cmあり、大人が両手を広げたのと同じか、それ以上です[1]。この大きな鳥の食卓には、何が並ぶのでしょうか。
環境省は、主な食べものとしてノウサギ、ヤマドリ、ヘビ類をあげています。カモシカやニホンジカの幼獣、テンなどのほ乳類も捕らえるとされます[1]。秋田市の動物園の解説では、これを数の多い順に並べて、ノウサギが最も多く、次いでヤマドリ、アオダイショウとなっています[2]。
食べものを探す範囲も広大です。つがいごとの行動圏は20〜250km²、平均で60km²ほどで、巣も食べものを探す場所もその中にあります[1]。60km²は、一辺がおよそ7.7kmの正方形と同じ広さです(計算した値)。この平均値は日本イヌワシ研究会の数値と注記されています。
山のワシは、陸の獣と鳥とヘビを食べています。では、海辺で冬をすごすワシは、何を食べているのでしょうか。
イヌワシは全長81〜89cm、翼開長168〜213cmの大型猛禽で、環境省はノウサギ、ヤマドリ、ヘビ類を主な食料とし、カモシカやニホンジカの幼獣、テンなどのほ乳類も捕食すると整理している[1]。
ここで注意したいのは「主な」の中身である。環境省の資料は食べものを列挙するだけで、順位は示していない。順位を書いているのは秋田市の動物園の解説で、ノウサギが最も多く、次いでヤマドリ、アオダイショウとする[2]。ただし、これは動物園による二次的な解説なので、地域や年によって順位が入れかわる可能性は残る。
食べものを探す範囲は広く、つがいごとの行動圏は20〜250km²(平均60km²)で、営巣場所も採餌場所もその内側に含まれる[1]。平均60km²は一辺約7.7kmの正方形に相当する(計算値)。ただしこの平均は日本イヌワシ研究会の数値と注記されており、環境省が独自に測ったものではない。
山のワシの食卓は、陸の獣と鳥とヘビでほぼ説明がつく。では、海辺で冬をすごすワシはどうか。
2. うみの ワシの ごはんは、なに?
2. 海のワシは、魚と海鳥、そして漁船が捨てた魚を食べる
2. 海のワシは、魚や海鳥のほか、流れ着いた死がいや漁船の魚も食べる
ふゆの 北海道には、オジロワシと オオワシが やって きます。この ワシたちは、魚や 海の 鳥、しがいも たべます[3]。
オジロワシは、スケトウダラなどの 魚を とります。そして、漁船が すてる ざこも たべます[3]。
オオワシは、魚や 海の 鳥の ほかに、なみに ながされて きた 海の どうぶつの しがいも たべます。スケトウダラりょうから でる 魚にも、おおきく たよって います[4]。
さっぽろの どうぶつえんの かいせつでは、オジロワシの しゅしょくは 魚で、しがいも たべると されて います[5]。
ワシは かりの めいじんなのに、しんだ ものも たべるのです。どうして でしょう。
冬の北海道の海辺には、オジロワシとオオワシがやってきます。山のイヌワシとは、食卓の顔ぶれがすっかり変わります。
環境省によると、オジロワシは海鳥類やスケトウダラなどの海の魚を捕らえ、漁船が捨てる雑魚も餌にします[3]。札幌市の動物園の解説も、魚が主食で、海鳥やほ乳類の死肉も食べると説明しています[5]。
オオワシはもう一歩進んで、越冬地では魚類や海鳥類、海にすむほ乳類の漂着死体などを食べ、スケトウダラ漁などから出る魚にも大きく頼っています[4]。
数は、オジロワシが北海道と本州北部で越冬するもので約700〜900羽、オオワシが北海道東部を中心に約1,400〜1,700羽とされます[3][4]。オオワシは資料によって数に幅があります。
山も海も、ワシの食卓には狩ったものだけでなく、すでに死んでいるものが載ります。狩りの名人が、なぜ死がいも食べるのでしょうか。
北海道と本州北部で越冬するオジロワシ(全長約69〜92cm、翼開長200〜245cm)は、環境省の資料では海鳥類やスケトウダラ等の海産魚類を捕食し、漁船が捨てる雑魚も餌にしている[3]。円山動物園の解説も、魚が主食で、海鳥や哺乳類の死肉も食べるとする[5]。国内の野生下で繁殖するタカ類では最大とされる、堂々とした鳥の食卓である。
オオワシ(全長約85〜94cm、翼開長220〜250cm)の記述はさらに踏みこんでいる。越冬地では魚類、海鳥類、海棲哺乳類の漂着死体などを食物とし、スケトウダラ漁等から供給される魚にも大きく依存するという[4]。「依存」と書かれるほど、人の漁業が食卓の一部になっているわけだ。
越冬数はオジロワシが約700〜900羽、オオワシが約1,400〜1,700羽とされる[3][4]。オオワシは約800〜1,500羽とする資料もあり、数え方や年で幅が出る。
山も海も、食卓には自分で仕留めたものだけでなく、すでに死んだものが載る。では、狩りの名人が死がいも食べるのは、特別な例なのか。
3. かりの めいじんが、しんだ ものも たべるのは どうして?
3. 狩りの名人は、手に入りやすいものも食べている
3. 「機会をとらえる捕食者」── 手に入りやすい獲物を食べるという見方と、その限界
きたアメリカの イヌワシの けんきゅうの まとめでは、イヌワシは「その ちいきで いちばん おおい ちゅうくらいの えものを たべる」と されて います[6]。
きたアメリカの イヌワシは、てに はいりやすい えものを たべる ことが ある、という ことです。
ふゆは えものが すくなく なります。そんな ときは、しんだ どうぶつも たべると、アメリカの ワシの ほごだんたいは かいせつして います[7]。
アメリカの ハクトウワシは、ほかの 鳥の えものを うばう ことも あると いわれます[8]。
ワシは、てに はいりやすい ものも たべます。
北米西部の研究をまとめた論文では、繁殖期のイヌワシはウサギ類を主な獲物にしている調査地が78%、リス類が18%でした[6]。これは「調べた場所のうち何%でその獲物が主役か」という数字で、ワシの食べものの何%がウサギという意味ではありません。また、日本のイヌワシの数字でもありません。
この論文は、イヌワシを、その地域でいちばん多い中型の獲物を食べる「何でも屋で機会をとらえる捕食者」と表現しています[6]。この北米西部の研究では、繁殖期以外はウサギ類と動物の死がいが最も多く記録されました。
アメリカの鷲類の保護団体も、イヌワシは手軽な食事を利用する食べ方をし、獲物が少ない冬にとくにそうだと説明しています[7]。北米のハクトウワシは、サケやニシンなどの魚を主に食べ、手に入りやすければ死がいもよく食べます。ミサゴなど他の猛禽から食べものを奪うこともあります[8]。
つまりワシは、狩りの名人であると同時に、近くで手に入りやすいものを使う食べ方をしています。では日本の海辺では、その「手に入りやすいもの」にどんな人の仕事が入っているのでしょうか。
この「手に入りやすいものを食べる」という見方は、北米の研究で言葉になっている。ベドロシアンらの総説では、繁殖期のイヌワシはウサギ類が主な獲物になる調査地が78%、リス類が18%で、地域でいちばん多い中型の獲物を食べる「generalist and opportunistic predators」(何でも屋で機会をとらえる捕食者)とまとめられる[6]。繁殖期以外では、ウサギ類と動物の死がいが最も多く記録された。
ただし、78%は「調べた調査地のうち、ウサギ類が主な獲物だった場所の割合」であり、食事の中身の割合ではない。また北米西部の数字を日本のイヌワシに当てはめることもできない。日本で言えるのは、環境省と動物園の解説が示す「ノウサギ・ヤマドリ・ヘビ類が中心」という列挙までである。
季節についても、米国の保護団体は、イヌワシは死がいのような手軽な食事を利用する日和見の食べ方をし、獲物が少ない冬にとくにそうだと説明している[7]。ハクトウワシの食性も、利用できるときは主に魚、手に入れやすければ死がいも食べ、「強い捕食者だが、ときに腐肉食者」と評され、ミサゴなど他の猛禽から食べものを奪うこともある[8]。
食べた中身を調べる方法にも限界がある。フクロウは骨まで飲みこんで固めて吐き出すペリットで食べものを調べやすいが、ワシやタカは獲物を裂いて食べ骨をほとんど飲まないため、ペリットはフクロウのものほど獲物調べに役立たないとされる[9]。ワシの食べものの調査が、見かけより難しい理由の一つだろう。
では、日本の海辺で「手に入りやすいもの」には、何が入っているのか。
4. ワシの ごはんは、人の しごとと つながって いるの?
4. 漁船が捨てる魚やシカ猟の残りも、ワシの食卓に入ってくる
4. 漁業とシカ猟 ── 人の仕事が食卓に入るとき、何が起きたか
ワシは、人の しごとからも ごはんを えて います。漁船が すてる 魚を たべる オジロワシや、スケトウダラりょうから でる 魚に たよる オオワシです[3][4]。
シカの りょうも、おなじです。北海道の ひがしでは、ワシが りょうの あとの シカの しがいも たべて いました。
ところが、シカを うつのに つかった なまりの たまも、しがいと いっしょに のみこんで しまう ことが あると わかりました[10]。
そこで、なまりの ライフルだまは 2000ねんどの りょうきから きんしに、2001ねんからは なまりの たま ぜんぶが エゾシカりょうで ぜんめん きんしに なりました[10]。ワシの ごはんを まもる ための きまりです。
森と 海と 人の しごとは、ワシの ごはんを とおして つながって います。
海ワシ類の食卓は、人の仕事ともつながっています。オジロワシは漁船が捨てる雑魚を、オオワシはスケトウダラ漁などから供給される魚を食べ、後者は大きく頼っているとされます[3][4]。
陸でも似たことがありました。環境省の発表では、北海道東部で1997年ごろから、オオワシとオジロワシがエゾシカ猟の鉛ライフル弾を、エゾシカの死がいごと飲みこむ事例が指摘されていました[10]。猟のあとの獲物の残りも、ワシの食べものになっていたわけです。
これを受けて、エゾシカ猟での鉛ライフル弾は平成12年度(2000年度)の猟期から使用禁止となり、鉛弾全体は2001年(平成13年)11月1日から全面禁止になりました[10]。ワシの食卓にあるものが人の仕事とつながっていると分かったことで、対策が進んだ例です。
山の獣、海の魚、人の漁業、猟の残り。ワシの食べものには、森や海だけでなく、人の漁業や猟も関わっています。
人の漁業が食卓の一部になっていることは、前章で見た。オジロワシは漁船が捨てる雑魚を餌にし、オオワシはスケトウダラ漁等から供給される魚に大きく依存する[3][4]。
陸の猟でも同じことが起きていた。環境省の発表では、北海道東部で1997年ごろから、オオワシやオジロワシがエゾシカ猟に使われた鉛ライフル弾を、エゾシカの死骸と一緒に飲みこむ事例が指摘されてきた。これはワシが猟の残りも食べていることを示している[10]。
この指摘を受けて、エゾシカ猟での鉛ライフル弾は平成12年度(2000年度)の猟期から使用禁止となり、鉛弾全体は2001年(平成13年)11月1日から全面禁止された[10]。食べものの把握が、規制という具体的な対策につながった例だ。
つまり、ここで見た海ワシ類は漁船の魚や猟の残りを、北米のイヌワシは手軽な食事を利用しており、食卓の中身は、近くに何があるかで変わる。ワシの食べものを知ることは、人の漁業や猟との関わりを知ることにもつながる。
5. ワシの すむ 広さを、ちずで たしかめよう
5. 食卓の広さを、地図の上で確かめる
5. 行動圏の広さを、地図で計算してみる
イヌワシの つがいの ひろさは、へいきんで 60へいほうキロメートルでした。おうちの ちかくの ちずを ひらいて、一へんが 7.7キロメートルぐらいの 四角を かいて みましょう。
その 中に、山や かわが どれだけ ある でしょう。ワシは この 中で ノウサギや ヤマドリを さがして います。
どうぶつえんや かんきょうしょうの かいせつを よむと、まだ ほかに たべるものが のって います。
平均60km²の行動圏は、地図の上で見ると意外に想像しやすくなります。お住まいの地域の地図を開き、縮尺を確かめて、一辺およそ8kmの正方形を描いてみましょう。
その中に山林や川がどれだけ入るかを見ると、ワシが食べものを探して歩く範囲の広さが分かります。20km²(一辺約4.5km)から250km²(一辺約16km)まで、つがいによって幅があることも、描き比べると実感できます。
さらに、ワシの食べものについては、環境省や動物園の解説を読み比べると、順位や季節の説明が資料によって違うことに気づけます。
平均60km²という行動圏は、地図に正方形を描くと実感しやすい。縮尺を確かめ、一辺約7.7kmの正方形を描いてみよう。20km²なら一辺約4.5km、250km²なら約16kmになる(いずれも計算値)。
その範囲に山林や川がどれだけ入るかを見れば、ワシの食卓が広い土地の上に成り立っていることが分かる。さらに環境省の種別資料と動物園の解説、北米の総説を読み比べると、「何が主か」の言い方や根拠が資料ごとに違うことに気づける。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った事実の出どころ。数値は資料によって幅がある。
- 環境省「イヌワシ」 https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/inuwashi.html (大きさ・食べもの・行動圏)
- 秋田市大森山動物園「イヌワシ」 https://www.city.akita.lg.jp/zoo/information/1003682/1005303/1003868.html (食べものの順位)
- 環境省「オジロワシ」 https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/ojirowashi.html (食べもの・大きさ・越冬数)
- 環境省「オオワシ」 https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/owashi.html (食べもの・大きさ・越冬数)
- 札幌市円山動物園「オジロワシ」 https://www.city.sapporo.jp/zoo/133-p.html (オジロワシの主食)
- Bedrosian et al. (2017) Journal of Raptor Research 51(3) https://doi.org/10.3356/JRR-16-38.1 (北米西部のイヌワシの食性)
- American Eagle Foundation「Golden Eagle Diet」 https://eagles.org/ (冬の食べ方)
- Audubon Field Guide「Bald Eagle」 https://Audubon.org/field-guide/bird/bald-eagle (ハクトウワシの食べもの)
- Stanford Birds「Pellets」 https://web.stanford.edu/group/stanfordbirds/text/essays/Pellets.html (ペリットについて)
- 環境省 報道発表(エゾシカ猟の鉛弾規制) https://www.env.go.jp/press/2464.html (鉛弾の指摘と全面禁止の日付)
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