1. だれも 見ていない よるの しょくじを、どうやって しるの?
1. 誰も見ていない夜の食事を、吐き出された塊が記録している
1. 見えない食事の記録:ペリットはなぜ「食べた物の骨」を残すのか
フクロウは、ネズミのような 小さな どうぶつを、ほぼ まるごと のみこみます。おなかの 中の 砂嚢という ところで、こなせない ほねや け、はを まとめて、数時間あとに 口から はきだします。これが ペリットです。うんちでは ありません[1]。
ワシや タカは えものを ひきちぎって たべるので、ほねが ばらばらに なりがちです。フクロウは まるのみなので、ほねが もとの 形に ちかく のこります。ほねの かたちを 見れば、ネズミか、とりか、かえるの なかまかまで しぼれる そうです[1]。
ペリットは、フクロウの 食べものを 書いた メモのようなものです。ただし、メモには 書かれて いない ことも あります。それは あとの 章で 見ます。
2. ほねを しらべたら、はじめて わかった えものが あったの?
2. 67個の塊から、初めて記録された食べ物が見つかった
2. 67個のペリットから、初記録の食べ物が4種見つかった
えひめけんの ある 村で、トラフズクという フクロウの ペリットを 67こ あつめて、ほねを しらべた けんきゅうが あります。えひめけんの はくぶつかんの 人たちが 書いた ほうこくです[2]。
ほねから、ハツカネズミなどの ネズミの なかま、コウモリの なかま、トガリネズミの なかまが 見つかりました。とりも 1わ ぶん ありました。
その 中の カヤネズミ、アブラコウモリ、ウサギコウモリ、ジネズミの 4しゅは、トラフズクの たべものとして、はじめて きろくされた どうぶつでした[2]。
「あたらしい 生きもの」を 見つけたのでは ありません。「トラフズクが これを たべて いた」と、はじめて わかったのです。
愛媛県の村で越冬したトラフズクのペリット67個を調べた研究があります。愛媛県総合科学博物館の川口・山本による報告で、日本鳥学会誌に2003年に出ました[2]。
見つかったのは、ハツカネズミなどのネズミ類、コウモリ類、トガリネズミ類の骨と、鳥1羽ぶんです。このうちカヤネズミ・アブラコウモリ・ウサギコウモリ・ジネズミの4種は、トラフズクの食べ物として初めて記録されました[2]。
ここで注意したいのは、「新種」ではないことです。動物そのものが新しく見つかったのではなく、「トラフズクがそれを食べる」ことが初めて確かめられた、という意味の新記録です。
フクロウの食べ物は、こうして一つずつ書き足されていきます。では、その土地にすむ動物を知りたいとき、フクロウの塊は、罠を仕掛ける調査の代わりになるのでしょうか。
愛媛県の村で越冬したトラフズク(Asio otus)のペリット67個を調べた報告(川口・山本、愛媛県総合科学博物館。日本鳥学会誌52巻1号、2003年)がある。骨から判別されたのは、ハツカネズミなどのネズミ類、コウモリ類、トガリネズミ類、そして鳥類1羽ぶんである[2]。
このうちカヤネズミ・アブラコウモリ・ウサギコウモリ・ジネズミの4種は、トラフズクの餌動物として初記録とされた[2]。「新種」ではなく食性の新記録である点を区別しておく。コウモリは空を飛び、トガリネズミ類は地面近くを動く。ペリットは、一つの食事場所から、生息場所のちがう動物の記録をまとめて拾えることがある。
すると、地域の小型哺乳類を知る方法として、ペリットは罠調査と比べてどうなのか。
3. わなで つかまえるのと、ペリットと、どちらが たくさん わかるの?
3. 罠で捕まえる調査と、ペリットは、どちらが多くの種を見つけるのか
3. 罠とペリット:種数は逆転することもある
ネズミの なかまを しらべる 方ほうに、わなを しかけて つかまえる やり方が あります。ペリットと くらべた けんきゅうが いくつか あります。
スペインの ある けんきゅうでは、見つかった 小さな ほにゅうるいの 数が、ペリットで 17しゅ、いけどりの わなで 9しゅでした[5]。ペリットの ほうが 2ばいちかく 多かったことになります。
ところが、ブラジルでは ぎゃくでした。メンフクロウの ペリット286こを しらべたら、ペリットでしか 見つからない ネズミが 2しゅ いた 一方で、わなだけで つかまった ネズミが 4しゅ ありました。しゅの 数は わなの ほうが 多く、けんきゅうした 人たちは「2つの 方ほうは おぎない あう」と まとめました[4]。
小型の哺乳類を調べる昔からの方法は、罠を仕掛けて捕まえることです。ペリットと比べた研究は、結果が一つにそろいません。
スペインの研究では、見つかった種の数が、フクロウのペリットで17種、ジェネット(ネコに似た夜行性の肉食獣)のふんで14種、生け捕り罠で9種でした[5]。17÷9で約1.9倍、ペリットのほうがほぼ2倍の種を拾ったことになります。
ところがブラジル中部のアラグアイア川では、メンフクロウのペリット286個(巣2か所の151個と135個)を調べると、ペリットだけに現れたネズミが2種いました。一方で罠だけで捕れた4種はペリットに出てこず、種の数は罠のほうが多かったのです[4]。著者たちは、2つの方法は補い合うと結論しています[4]。
理由の一つは、フクロウが狩る場所や獲物の選び方に傾きがあることでしょう。罠は仕掛けた場所に、ペリットは巣の周りに偏ります。では、時間の長い物差しで見るとどうなるのでしょうか。
小型哺乳類の種構成を調べる標準的な方法は罠であり、ペリットとの比較研究が複数ある。結果は一方向にそろわない。スペインの研究では、種数がペリット17種(17,232個体)、ジェネットのふん14種、生け捕り罠9種だった[5]。17÷9は約1.9で、この例では罠の約2倍の種がペリットから得られた。ただし、群集の構造を調べたいときにペリットを罠の代わりにすべきでないと注意する研究者もおり、研究によって結論は異なる[5]。
ところがブラジル中部のアラグアイア川では逆の結果が出た。メンフクロウのペリット286個(巣2か所、151個と135個)では、ペリットだけに現れたネズミ2種があった一方、罠だけで捕れた4種がペリットになく、種数は罠のほうが多かった。著者は「2つの方法は補い合う」と結論している[4]。
ペリットは捕食者の狩りの選択を通した標本、罠は人が選んだ場所の標本であり、見える範囲が異なる。さらに、群集の構造を調べたいときはペリットを罠の代わりにすべきでないという注意も要約されている[5]。「いつもペリットのほうが多い」とは言えない。では、ペリットは空間でなく時間に対しては何を語るのか。
4. むかしの ペリットから、むかしの 森の ようすが わかるの?
4. 洞窟に積もったペリットと博物館の棚が語る、長い時間の変化
4. 層になったペリットと収蔵標本:数千年から数十年の時間変化
アメリカの ユタしゅうに、ホームステッドという どうくつが あります。フクロウが ながい 年月に わたって はいた ペリットが、そこに 何そうにも つもって いました。
けんきゅうでは、およそ 13000ねんまえに きゅうに あたたかく なった ころ、すんでいた 小さな どうぶつの しゅるいは いれかわりました。でも、ぜんたいの 「エネルギーの ながれ」は あまり かわらなかったと されます。
ところが 1800ねんだいの おわりごろから、人間が 土地を かえたり、ほかの 国から きた 草が ひろがったり して、小さな どうぶつの 重さの ごうけいが 大きく へったと せつめいされて います[6]。
これは、この どうくつ ひとつの けっかです。ほかの ばしょにも そのまま あてはまるとは かぎりません。
米国ユタ州のホームステッド洞窟には、フクロウが長い年月にわたって吐いたペリットが層になって積もっていました。層ごとに骨を調べれば、その時代にまわりにいた小型哺乳類の顔ぶれが分かります。
2015年にPNASに出た研究(Terry と Rowe)の解説によると、約13,000年前に急に温暖化したころ、小型哺乳類の種は入れかわったものの、群集全体の「エネルギーの流れ」は安定していました。ところが1800年代後半以降は、人間による土地の変化(外来のチートグラスの広がりなど)で、生物量が大きく減ったとされます[6]。
これはこの洞窟での結果で、他の場所へそのまま広げることはできません。それでも、数千年の記録を一つの洞窟から取り出せるのは、ペリットが何層にも積もったからです。
スペインのナバラ大学動物学博物館には、メンフクロウのペリット由来の頭骨や下あごなどが、36種・7万2千点以上保管されています。記録は1967年から40年以上ぶんあり、2015年に始まった監視ネットワークで増え続けているとされます[7]。数千年から数十年まで、時間の長さの異なる記録が、骨として残るのです。
ペリットは堆積するため、時間変化の資料にもなる。米国ユタ州のホームステッド洞窟には、フクロウが吐いたペリットが長い年月にわたり層をなして積もっていた。Terry と Rowe(PNAS、2015)の解説によれば、約13,000年前の急な温暖化期には、小型哺乳類の種は入れかわりながらも群集全体のエネルギーの流れは安定していた。ところが1800年代後半以降は、人間による土地の変化(外来のチートグラスの拡大など)により生物量が大きく減った[6]。
この結果は一つの洞窟のものであり、他地域への一般化はできない。原論文ではなく解説記事に基づく点にも注意が要る。
数十年規模の資料もある。スペイン・ナバラ大学動物学博物館は、メンフクロウのペリット由来の頭骨・下あご・一部の骨格を36種、7万2千点以上収蔵し、記録は1967年から40年以上ぶんにのぼる。2015年に始まった監視ネットワークで今も増え続けている[7]。骨はそのまま標本になるため、あとの世代が別の方法で調べ直せる。
では、骨が手に入った後、見た目だけでは分けられない動物を、さらに別の方法で調べることはできないのか。
5. ほねの なかの いでんしで、まだ 名前の ない ネズミが わかるの?
5. 骨の遺伝子から、まだ名前のないネズミの手がかりが見つかった
5. ペリットの骨のDNA:未記載種の可能性まで
ブラジルでは、メンフクロウの ペリットに ある ほねの いでんしを しらべた けんきゅうが ありました。使える いでんしの ならびが とれたのは、およそ 4ぶんの 3 ぐらい。そこから ほにゅうるいが 11しゅ わかりました[8]。
その 中の 2しゅの オポッサムは、その ちいきで はじめて 見つかった ものでした。ネズミの 2しゅは、いままで 知られて いるどれとも 合わず、まだ 名前の ない しゅかもしれない、と 書かれて います[8]。
ただし、「あたらしい しゅを 見つけた」と 決まった わけでは ありません。かのうせいが ある、という ところまでです。
ほねの形だけでは、よく似た動物の見分けがむずかしいことがあります。そこで、ブラジル中部のメンフクロウのペリットの骨から、DNA(遺伝子の情報)を調べた研究があります(2015年、Systematics and Biodiversity)。
サンプルの約4分の3で使える配列が得られ、哺乳類11種が判別されました。2種のオポッサムは調査地で初めての記録でした。ネズミ2種(Oecomys 属)は、知られているどの種とも合わず、まだ記載されていない種の可能性があるとされます[8]。
「新種発見」と決まった段階ではありません。それでも、骨の形だけでは見分けにくい動物を、DNAが判別する手がかりになることがある、と分かりました。
ここまで、ペリットの得意なことを見てきました。では、読み間違えやすい点はどこにあるのでしょうか。
形態だけでは判別しにくい分類群には、DNAが使える。ブラジル中部のメンフクロウのペリットから骨のDNAを調べた研究(Systematics and Biodiversity、2015)では、サンプルの約4分の3で使える塩基配列が得られ、哺乳類11種が判別された。2種のオポッサムは調査地で初記録であり、ネズミ2種(Oecomys 属)は既知のどの種とも合わず、未記載種の可能性があるとされる[8]。
「新種発見」と断定された段階ではなく、可能性の提示にとどまる。ただ、骨の形だけでは見分けにくい動物を、DNAで判別する手がかりになりうることが示された点に意味がある。
ここまではペリットの利点を扱った。では、読み取りの限界はどこにあるのか。
6. ペリットの ほねから、どこまで わかるの?
6. 骨の数をそのまま「食べた割合」と読んではいけない理由
6. 集め方と消化による偏り:読み取りの限界
ペリットから わかることには、気を つける ところも あります。
ひとつは、ほねの のこりやすさです。小さな えものは まるのみで ほねや はが のこりやすく、大きな えものは ひきちぎって たべるので、ほねは のこりにくいと されます[3]。だから、ほねの 数が そのまま たべた わりあいとは かぎりません。
もうひとつは、おなかの 中で ほねが かわる ことです。2025ねんの けんきゅうでは、どうぶつえんの フクロウの なかまと タカの なかまに れいとうの ラットを たべさせて しらべました。すると、ほねを しらべて わかる ある すうじが、たべた ラットの ほねと ちがって いました[9]。
これは ペリットが つかえない、という いみでは ありません。ほねから しらべる 人は、気を つけて つかおう、という ことです。
ペリットの読み取りには、気をつけたい点が二つあります。
一つは、骨の残りやすさです。小さな獲物は丸のみされるので骨や歯が残りやすい一方、大きな獲物は引きちぎって食べるため、骨が残りにくくなります。そのため、骨の数が、そのまま食べた量の割合になるとは限りません[3]。ねぐらや巣が見つかればペリットは比較的集めやすいのですが、集まるのは「骨が残りやすい食べ物」に偏りうる、と考えておく必要があります。
もう一つは、消化の影響です。2025年の研究(Greenwood ほか、Ecology and Evolution)では、動物園で飼われているワシミミズク1羽とアカオノスリ1羽に冷凍ラットを与えて調べました。すると、消化によって骨の同位体の比が、食べたラットのものから変わっていました。骨を使って食べ物や環境を推定するときは、注意が必要だとされます[9]。
ペリットの骨が使えない、という意味ではありません。何が読め、何が読みにくいかを分けて使う、ということです。
第一の限界は、集まる骨の偏りである。小さな獲物は丸のみされるため骨や歯が残りやすく、大きな獲物は引きちぎられて食べられるため骨が残りにくい。ペリット中の骨の数を食べた量の割合とそのまま読み替えることはできない[3]。個体数と生物量は別の量で、骨の数から後者を直接求めることもできない。
第二の限界は、消化による変化である。2025年の研究(Greenwood ほか、Ecology and Evolution)は、動物園で飼育されたワシミミズク1羽とアカオノスリ1羽に冷凍ラットを与え、消化を経た骨の同位体比が食べたラットの骨と異なることを示した(小規模な実験である)。消化された可能性のある骨で食性や環境を評価するときは注意が必要とされる[9]。
ここまでに見た、罠との比較(第3章)、洞窟の層(第4章)、DNA(第5章)の結果は、どれも「条件つきで有効」という形をしている。ペリットは万能の記録ではなく、ほかの方法と組み合わせることで強くなる資料である。
7. もっと しりたく なったら どうする?
7. 食べ物の記録を、自分でも読んでみたくなったら
7. 食性の記録を読む:原典と、身近な足がかり
みつけたら
公園や 神社で、フクロウの すみかに 近い ところに、ペリットらしい かたまりが あるかも しれません。見つけても、手ぶくろなしでは さわらないで、おとなに つたえましょう。さわったら、手を よく あらいます。
しらべる とき
町の はくぶつかんや しぜんかんさつの 会では、ペリットを ほぐして ほねを しらべる 行事が ある ことが あります。ちかくで ひらかれて いないか、さがして みましょう。
見つけたとき
フクロウのすむ森や神社で、骨や毛をまとめたような塊を見つけても、素手でさわらず、大人と一緒に見ます。さわったら手をよく洗います。
行事を探す
地域の博物館や自然観察会には、ペリットをほぐして骨を調べる行事を行うところがあります。近くで開かれていないか調べてみてください。
資料を読むなら
愛媛の報告[2]は日本語の概要が公開されています。見つかった4種の名前を、本文と見比べてみてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- Audubon: What Is an Owl Pellet? https://audubon.org/news/what-owl-pellet (ペリットのでき方と、骨が残る理由)
- 川口・山本 愛媛県で越冬したトラフズクのペリットから見つかった餌動物. 日本鳥学会誌 52(1):29-31 (2003). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo1986/52/1/52_1_29/_article/-char/ja (67個のペリットと初記録の4種)
- WTAMU Mammalogy Lab 11(大学の実習資料). https://www.wtamu.edu/~rmatlack/Mammalogy/LAB11.html (骨の残りやすさと偏り)
- Rocha et al. Zoologia 28(6) (2011). https://scielo.br/j/zool/a/QnPqNRmMr7gwhjW979Q8c5R/?lang=en (ペリットと罠の比較)
- Journal of Mammalogy 85(3): Three methods for assessing richness and composition of small mammal communities. https://bioone.org/journals/Journal-of-Mammalogy/volume-85/issue-3/BJK-112/THREE-METHODS-FOR-ASSESSING-RICHNESS-AND-COMPOSITION-OF-SMALL-MAMMAL/10.1644/BJK-112.full (種数の比較。オーストラリアの例は同研究の要約から)
- EurekAlert: PNAS 2015 の解説(ユタ州ホームステッド洞窟). https://www.eurekalert.org/news-releases/755013 (洞窟のペリットの層と時間変化)
- FAPESP Pesquisa: Flying mousetraps (2015). https://revistapesquisa.fapesp.br/en/flying-mousetraps/ (ペリットの骨のDNA)
- ScienceDaily (2025-05-28): 消化が骨の同位体比に与える影響. https://sciencedaily.com/releases/2025/05/250527180914.htm (消化による変化)
なおした ところ
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