1. どうして「べつべつの なかま」だと おもわれたの?
1. 見た目や動き方がちがうアザラシ・アシカ・セイウチは、なぜ「祖先が別」と考えられたのか
1. 二系統説の中身 ── 運動様式のちがいと、イタチ系・クマ系という分け方
アザラシ、アシカ、セイウチは、どれも 海で くらし、ひれのような あしを もっています。それでも、うごきかたや からだの かたちは、ずいぶん ちがいます。
むかしの 研究しゃたちは、この ちがいを 大きな てがかりに しました。そして、アザラシは イタチの なかまに、アシカと セイウチは クマの なかまに つながると かんがえたのです[1]。
もし ほんとうなら、海の くらしは 2回、べつべつに はじまった ことに なります。ただし、これは 当時の 有力な かんがえで、今の 見方では ありません。
では、この かんがえは、なにを きっかけに ゆらいだのでしょう。
2. 耳の まわりの ほねを しらべなおすと、どうなったの?
2. 1987年、耳の骨の見直しで「別の祖先」説の根拠が弱まった
2. Wyss(1987)── 内耳まわりの形態の再検討と、二系統の根拠の弱さ
1987年、ワイスという 研究しゃが、耳の まわり(ちょうかくいき)の 骨の かたちを しらべ なおしました[2]。
むかしの 人たちは、「アザラシと イタチは 近い」と いう ことの しょうこを、いくつか あげていました。ワイスは、それらを ひとつずつ たしかめました。すると、「べつの そせん」と きめる ほどの 力は ないと わかりました。
そして、3つの なかまが ひとつの そせんから わかれた かのうせいが、強く しめされました[2]。
ただ、これは「ぜったいに そうだ」と きまった ことでは ありません。つぎの てがかりは、骨では ないものから 出て きます。
3. DNAは、なにを おしえて くれたの?
3. 2006年、DNAの読み取りが「ひとつの祖先」を指した
3. 分子系統学の結果 ── 鰭脚類の単系統とイタチ上科との姉妹群関係
2006年ごろ、DNAを くらべる 研究が 出ました。DNAは、生きものの からだの つくりかたを かいた 図の ような ものです。DNAの いくつかの ばしょを くらべて、ちがいを しらべると、どの いきもの どうしが 近いかを おしはかれます。
クマの なかまと イタチの なかまなど、29しゅを しらべた 研究では、アザラシ・アシカ・セイウチは、ひとつの そせんから 出て、イタチの なかまと 近い と しめされました。クマの なかまとは、ちがう えだに なります[4]。
べつの 研究も、3つの なかまが ひとつに まとまると しめしました[3]。
DNAの へんかから、アザラシ・アシカ・セイウチの なかまと イタチの なかまが わかれた じきは、およそ4500万年前と 見つもられて います[1]。ただし、これは 見つもりで、ぴったりの 年では ありません。
ところが、この 研究には、もう ひとつ おどろきが ありました。
2つの研究が同じ向きを指した
2006年の研究が2つあります。ひとつは、クマ系とイタチ系の食肉類29種を、3つの遺伝子で比べたものです。鰭脚類は一つの祖先から出ていて、その祖先はイタチ上科と共通で、クマ科は含まれない、という結果でした[4]。
もうひとつは、現生のアザラシ・アシカ・オットセイ・セイウチを含む分子研究で、これも鰭脚類がひとつにまとまることを支持しました[3]。1987年の耳の骨の見直しと、別の種類のデータが同じ向きを指したことになります。
「カワウソ由来」ではない
近い仲間はイタチ上科(カワウソ・イタチ・アライグマなど)全体で、特定の1種ではありません[4]。複数の遺伝子を使った分析からは、鰭脚類とイタチ上科が分かれたのは約4500万年前、アシカ上科とアザラシ科が分かれたのは約2700万年前、という推定も出ています[1]。これは分子時計による推定値です。
4. かんがえを かえた 人も、まちがえたの?
4. 覆した側の案も、のちに一部が修正された
4. セイウチの位置 ── Wyss(1987)の細部とArnasonら(2006)の修正
ワイスは、もう ひとつ、ちがう ことも かんがえて いました。セイウチは アシカより、アザラシに 近い、と いう かんがえです[2]。
ところが 2006年の DNAの 研究は、ちがう 形を しめしました。セイウチは アシカと ひとまとまりで、アザラシは そのとなりの もうひとつの グループ、という わけかたです[3]。
つまり、「3つの なかまは ひとつの そせん」と いう 大きな ところは のこり、セイウチの いちだけが なおりました。
では、「ひとつの そせん」から、どんな すがたを へて 海に 入った のでしょう。
5. 海に 入る とちゅうの すがたは、のこって いるの?
5. 北極の湖の化石は、陸から海への途中を見せた
5. エナリアークトスとプイジラ ── 化石が埋めた「中間の姿」
DNAは、いきものの 今の すがたから、むかしを おしはかる 方ほうです。もう ひとつの てがかりは、化石です。
アメリカの カリフォルニアや オレゴンで みつかった エナリアークトスは、りくの ほにゅうの なかまと、今の アザラシなどの あいだの 歯や うごきの とくちょうを もつと いわれます[5]。およそ3000万〜1700万年前の ものです。
もうひとつは、カナダの 北の デボン島の 湖の 土から みつかった プイジラです。およそ2300万年前の ものと される 動物で、長い しっぽを もち、足の ゆびの 骨が ひらたく、水かきが あった らしい と いわれます[6]。
ただし、ひれあしでは ありません。プイジラは「アザラシの そせん」では なく、えだ分かれの とちゅうを 見せる 化石だと 見られて います[8]。
エナリアークトス ── 歯と動きが中間の海生食肉類
エナリアークトスは、アメリカのカリフォルニア州やオレゴン州の地層から見つかった海生食肉類で、陸の食肉類と現生の鰭脚類の中間の歯と運動の特徴をもつとされます[5]。年代は約3000万〜1700万年前と、資料によって幅があります。
プイジラ ── 北極の湖から出た水かき足
プイジラは、カナダ・ヌナブト準州のデボン島で、火口湖の堆積物から見つかった前期中新世(約2300万年前ごろ)の半水生食肉類です。長い尾をもち、手足の比率は陸の食肉類に近く、扁平な指の骨は水かきを示します。ただし、ひれ足ではありません[6]。発見の論文は Rybczynski ら(2009)の『Nature』です[7]。
この化石は、初期の進化に淡水の段階があった可能性と、北極圏が初期進化の中心の一つだった可能性を示すと説明されます[8]。ただし「アザラシの祖先」ではなく、枝分かれの途中を映す化石、という位置づけです。
エナリアークトスは、米国カリフォルニア・オレゴンの地層から報告された海生食肉類で、陸上で暮らすクマ類などの仲間と、現在の鰭脚類の中間にあたる歯や動きの特徴をもつ。最古のエナリアークトス類の下あごは30.6〜27.4 Ma(約3060万〜2740万年前)の地層から出ており、年代は資料により幅がある[5]。
プイジラ(Puijila darwini)の骨格は、カナダ・ヌナブト準州デボン島の火口湖堆積物から出た前期中新世(約2300万年前ごろ、資料により約2000〜2400万年前の幅)のものだ。長い尾、陸生食肉類に近い四肢の比率、水かきを示す扁平な指骨をもつが、ひれ足ではない[6]。発見者はRybczynski、Dawson、Tedfordらだ(Rybczynski et al. 2009, Nature 458:1021)[7]。
淡水の段階があった可能性と、北極圏が初期進化の中心の一つだった可能性が論じられている。ただし、プイジラは祖先そのものではなく、枝分かれの途中を映す化石と位置づけられる[8]。「アザラシはカワウソから進化した」という読み方もできない。姉妹群はイタチ上科全体だ[4]。
6. 自分でも たしかめて みよう
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 出口 ── 原典と展示で確かめる
どうぶつの ずかんで、アザラシと アシカと セイウチの 耳や あしを 見くらべ、水ぞくかんや 動ぶつえんでは うごきかたを 見て みましょう。ずかんは、ページの おくの 「なかま わけ」も ひらいて みます。
むかしの 人も、同じ ところを 見て、「べつの そせん」と かんがえた のかも しれません。あなたは、どこが ちがって、どこが にて いると おもいますか。
プイジラや エナリアークトスの 化石は、図かんや はくぶつかんの 本で さがせます。
図鑑でアザラシ・アシカ・セイウチの耳や手足、体のつくりを見くらべ、水族館や動物園では動き方を見てみましょう。「どこがちがうのか」「どこが似ているのか」を、自分の目で書き出します。
むかしの研究者も、似たような場所を見て、別の祖先だと考えたのかもしれません。図鑑の「分類」のページには、いまの考え方がのっています。
プイジラやエナリアークトスは、図鑑や博物館の本で、化石の復元図を探してみましょう。
原典に当たるなら、プイジラの発見はRybczynski et al. (2009), Nature 458:1021、分子系統はArnason et al. (2006), Molecular Phylogenetics and Evolution 41(2):345–354が手がかりになる。Wyss (1987), American Museum Novitates 2871の要旨はAMNHのデジタルライブラリで読める。まず題名や著者名を大学図書館や公開データベースの検索に入れ、要旨から読むとよい。
読むときは、「どの証拠が、どの仮説を、どこまで支えるか」に注目するとよい。二系統説のように、複数の資料が示す結論でも、細部には食い違いが残ることがある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:学術誌の論文要旨、解説記事、科学ニュースなどを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Frontiers in Ecology and Evolution (2019) 鰭脚類の系統(化石と分子)に関する論文。https://frontiersin.org/articles/10.3389/fevo.2019.00457/full (二系統説の内容、分岐年代の推定について)
- Wyss (1987) American Museum Novitates 2871(要旨)。https://digitallibrary.amnh.org/items/edb3572e-e96b-414c-ab7c-00a07d847ce3/full (耳の骨の再検討と二系統説の根拠について)
- Arnason et al. (2006) Molecular Phylogenetics and Evolution 41(2):345-354(要旨)。https://lup.lub.lu.se/record/386660 (分子データによる単系統の支持、セイウチの位置について)
- Zoological Science 23(2) (2006) 核DNA配列による鰭脚類の系統。https://complete.bioone.org/journals/zoological-science/volume-23/issue-2/zsj.23.125/Evidence-from-Nuclear-DNA-Sequences-Sheds-Light-on-the-Phylogenetic/10.2108/zsj.23.125.full (イタチ上科との共通祖先について)
- Poust & Boessenecker (2018) Acta Palaeontologica Polonica 63(1)。https://app.pan.pl/article/item/app003992017.html (エナリアークトスについて)
- ScienceDaily (2009) プイジラ発見の紹介(Rybczynski et al. 2009, Nature 458:1021)。https://sciencedaily.com/releases/2009/04/090422132832.htm (プイジラの特徴と発見場所について)
- Rybczynski, Dawson, Tedford et al. (2009) A semi-aquatic Arctic mammalian carnivore from the Miocene epoch and origin of Pinnipedia. Nature 458:1021–1024。https://doi.org/10.1038/nature07985 (プイジラの発見論文。ScienceDaily・National Geographicの解説の元)
- National Geographic Phenomena (2009) プイジラの解説。https://www.nationalgeographic.com/science/article/puijila-the-walking-seal-a-beautiful-transitional-fossil (プイジラの位置づけについて)
なおした ところ
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