このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

アザラシと アシカは、もとから べつの いきものだと おもわれていた?

アザラシとアシカは「祖先から別」と考えられていた ── 耳の骨とDNA、北極の化石が変えた見方

鰭脚類の二系統説はなぜ退けられたか ── 内耳の形態、核DNA、中新世前期の半水生食肉類

分野:生きもの

北極ほっきょくの 湖から、長い しっぽと 水かきの ある あしを もちながら、ひれあしでは ない どうぶつ「プイジラ」の 化石かせきが みつかりました。アザラシと アシカと セイウチは、むかしの 研究けんきゅうしゃたちから「そせんからして べつの なかま」と おもわれた ことが ありました。

どうして そう おもわれ、どうして かんがえが かわったのでしょう。耳の 骨ほねと DNAと、北極ほっきょくの 湖で みつかった 化石かせきが、その こたえを おしえて くれる ことが わかります。

北極の火口湖から、長い尾と水かきのある足をもちながら、ひれ足ではない動物プイジラの化石が見つかりました。この化石は、水族館で並んで見かけるアザラシとアシカとセイウチの来歴を考える手がかりになります。この3つは、1960年代から1980年代の終わりごろまで、「祖先からして別」と広く考えられていました[1]。アザラシはイタチの仲間に、アシカとセイウチはクマの仲間につながる、という考えです。

では、その考えはどこでくずれたのでしょう。耳の骨の見直しとDNAの研究、そして北極の湖で見つかった水かき足の化石をたどると、考えが変わっていった道すじが分かります。

北極の火口湖から、長い尾と水かき足をもちながらひれ足ではない半水生食肉類プイジラの化石が見つかった(Rybczynski et al. 2009)。鰭脚類(アザラシ科・アシカ科・セイウチ科)は、1960年代から1980年代後半まで、二系統(diphyly)だと広く信じられていた。アザラシ科はイタチ類に、アシカ科とセイウチ科はクマ類につながるという説だ[1]。

この説は、1987年の耳の骨の再検討を皮切りに、分子データと化石によって退けられていった。しかも、退けた側の細部も後に修正されている。経緯を追うと、仮説が「覆る」とはどういうことかが分かる。

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1. どうして「べつべつの なかま」だと おもわれたの?

1. 見た目や動き方がちがうアザラシ・アシカ・セイウチは、なぜ「祖先が別」と考えられたのか

1. 二系統説の中身 ── 運動様式のちがいと、イタチ系・クマ系という分け方

アザラシ、アシカ、セイウチは、どれも 海で くらし、ひれのような あしを もっています。それでも、うごきかたや からだの かたちは、ずいぶん ちがいます。

むかしの 研究しゃたちは、この ちがいを 大きな てがかりに しました。そして、アザラシは イタチの なかまに、アシカと セイウチは クマの なかまに つながると かんがえたのです[1]。

もし ほんとうなら、海の くらしは 2回、べつべつに はじまった ことに なります。ただし、これは 当時の 有力な かんがえで、今の 見方では ありません。

では、この かんがえは、なにを きっかけに ゆらいだのでしょう。

見た目の差を、祖先の差と読んだ

3つの仲間は、体の形も動き方も大きくちがいます。1960年代から1980年代の終わりごろまで、そのちがいは、そもそも祖先が別だったからだと読まれることが多かったのです[1]。

二系統説の中身

二系統説では、アザラシ科はイタチの仲間(イタチ上科)に、アシカ科とセイウチ科はクマの仲間につながると考えました[1]。「アシカだけがクマ系」ではなく、アシカとセイウチがそろってクマ系、という分け方です。

この考えが正しければ、海の暮らしは陸の食肉類から2回、別々に始まったことになります。次の章では、この考えに最初の疑いを向けた研究を見ます。

二系統説は、現生群の運動様式や形態が大きく異なることを一因として支持された[1]。具体的には、アザラシ科はイタチ上科と、アシカ科とセイウチ科(合わせてアシカ上科)はクマ類と近縁だとされた[1]。海への適応が、陸の食肉類から独立に二度起きたという主張になる。

見た目や動き方が違うほど祖先も遠い、という推論は自然に見える。ただし形の違いは、同じ祖先から分かれたあとの変化でも生じうる。この区別をどう確かめるかが、次の章の問いになる。

2. 耳の まわりの ほねを しらべなおすと、どうなったの?

2. 1987年、耳の骨の見直しで「別の祖先」説の根拠が弱まった

2. Wyss(1987)── 内耳まわりの形態の再検討と、二系統の根拠の弱さ

1987年、ワイスという 研究しゃが、耳の まわり(ちょうかくいき)の 骨ほねの かたちを しらべ なおしました[2]。

むかしの 人たちは、「アザラシと イタチは 近い」と いう ことの しょうこを、いくつか あげていました。ワイスは、それらを ひとつずつ たしかめました。すると、「べつの そせん」と きめる ほどの 力は ないと わかりました。

そして、3つの なかまが ひとつの そせんから わかれた かのうせいが、強く しめされました[2]。

ただ、これは「ぜったいに そうだ」と きまった ことでは ありません。つぎの てがかりは、骨ほねでは ないものから 出て きます。

証拠のひとつずつを点検した

1987年、ワイスは、耳のまわり(聴覚域)の骨格・形態を中心に、これまで二系統説を支えるとされてきた特徴を見直しました。アザラシとイタチ類が近いという考えを支える特徴は、どれも、鰭脚類が二系統だという強い根拠にはならない、というのが結論です[2]。

同時に、アザラシ・アシカ・セイウチが共通の一つの祖先から出た(単系統)可能性が、強く示されました[2]。

「確定」ではなく「疑いが強まった」

ここで示されたのは、二系統説の根拠が弱いことと、単系統の可能性です。単系統だと決まった、とまでは書かれていません。決め手には、別の種類の証拠がもう一つ必要でした。

Wyss(1987)は、鰭脚類の聴覚域を含む形態を再検討し、アザラシ科とイタチ類(mustelids)の近縁を支持するとされてきた形質が、鰭脚類二系統説の説得力ある証拠にならないことを示した[2]。あわせて、鰭脚類が単系統である可能性を強く示した[2]。

ただし、示されたのは「二系統説の根拠の弱さ」であり、単系統の確定ではない。形態形質は、解釈によって枝分かれの読み方が変わりうる。独立した種類のデータ、つまり分子データで同じ結論に届くかが次の課題になった。

3. DNAは、なにを おしえて くれたの?

3. 2006年、DNAの読み取りが「ひとつの祖先」を指した

3. 分子系統学の結果 ── 鰭脚類の単系統とイタチ上科との姉妹群関係

2006年ごろ、DNAを くらべる 研究が 出ました。DNAは、生きものの からだの つくりかたを かいた 図の ような ものです。DNAの いくつかの ばしょを くらべて、ちがいを しらべると、どの いきもの どうしが 近いかを おしはかれます。

クマの なかまと イタチの なかまなど、29しゅを しらべた 研究では、アザラシ・アシカ・セイウチは、ひとつの そせんから 出て、イタチの なかまと 近い と しめされました。クマの なかまとは、ちがう えだに なります[4]。

べつの 研究も、3つの なかまが ひとつに まとまると しめしました[3]。

DNAの へんかから、アザラシ・アシカ・セイウチの なかまと イタチの なかまが わかれた じきは、およそ4500万年前と 見つもられて います[1]。ただし、これは 見つもりで、ぴったりの 年では ありません。

ところが、この 研究には、もう ひとつ おどろきが ありました。

2つの研究が同じ向きを指した

2006年の研究が2つあります。ひとつは、クマ系とイタチ系の食肉類29種を、3つの遺伝子で比べたものです。鰭脚類は一つの祖先から出ていて、その祖先はイタチ上科と共通で、クマ科は含まれない、という結果でした[4]。

もうひとつは、現生のアザラシ・アシカ・オットセイ・セイウチを含む分子研究で、これも鰭脚類がひとつにまとまることを支持しました[3]。1987年の耳の骨の見直しと、別の種類のデータが同じ向きを指したことになります。

「カワウソ由来」ではない

近い仲間はイタチ上科(カワウソ・イタチ・アライグマなど)全体で、特定の1種ではありません[4]。複数の遺伝子を使った分析からは、鰭脚類とイタチ上科が分かれたのは約4500万年前、アシカ上科とアザラシ科が分かれたのは約2700万年前、という推定も出ています[1]。これは分子時計による推定値です。

核DNAの3遺伝子(クマ系・イタチ系の食肉類29種)の解析は、鰭脚類が、クマ科を除いたイタチ上科と共通の祖先をもつ単一起源であることを強く示した[4]。Arnasonら(2006)の分子解析も、現生のアザラシ・アシカ・オットセイ・セイウチを含めて鰭脚類の単系統を支持し、「従来の形態学的見解に反して」と述べている[3]。

形態と分子という独立した手段が同じ結論に届いたため、二系統説は退けられていった。分岐年代は、複数遺伝子データを使った推定で、鰭脚類とイタチ上科が約4500万年前、アシカ上科とアザラシ科が約2700万年前とされる[1]。分子時計の推定値で、幅をもって読むべき数字だ。

4. かんがえを かえた 人も、まちがえたの?

4. 覆した側の案も、のちに一部が修正された

4. セイウチの位置 ── Wyss(1987)の細部とArnasonら(2006)の修正

ワイスは、もう ひとつ、ちがう ことも かんがえて いました。セイウチは アシカより、アザラシに 近い、と いう かんがえです[2]。

ところが 2006年の DNAの 研究は、ちがう 形を しめしました。セイウチは アシカと ひとまとまりで、アザラシは そのとなりの もうひとつの グループ、という わけかたです[3]。

つまり、「3つの なかまは ひとつの そせん」と いう 大きな ところは のこり、セイウチの いちだけが なおりました。

では、「ひとつの そせん」から、どんな すがたを へて 海に 入った のでしょう。

当時ほぼ通説だった組み合わせを、疑っていた

ワイスは、アシカとセイウチが近いという、当時ほぼ通説だった見方を疑い、セイウチはアザラシと、進化の手がかりになる共通の特徴を多くもつと主張しました[2]。

この部分だけ、のちに修正された

2006年の分子研究は、鰭脚類が一つにまとまることを支持したうえで、最初の分かれ目はアシカ上科(アシカ科とセイウチ科)とアザラシ科の間だ、としました[3]。セイウチの位置は、アザラシの側ではなくアシカの側でした。

ただし、修正されたのはセイウチの位置の細部です。単系統という中心の結論は、その後も支持され続けています。

Wyss(1987)は、ほぼ通説だった「セイウチ+アシカ」の結びつきを疑い、セイウチはアザラシと共通の派生形質を多くもつと主張した[2]。

これに対しArnasonら(2006)は、鰭脚類の単系統を支持するとともに、基部での分岐がアシカ上科(アシカ科+セイウチ科)とアザラシ科の間にあるとした[3]。単系統の核心は残り、セイウチの位置だけが修正された形だ。

仮説の「覆り」は、全面の勝ち負けではなく、枝の一部が組み替わる過程でもある。Wyssの要旨が述べるのは、二系統説を支える形質が決め手にならない、という点までだ。

5. 海に 入る とちゅうの すがたは、のこって いるの?

5. 北極の湖の化石は、陸から海への途中を見せた

5. エナリアークトスとプイジラ ── 化石が埋めた「中間の姿」

DNAは、いきものの 今の すがたから、むかしを おしはかる 方ほうです。もう ひとつの てがかりは、化石かせきです。

アメリカの カリフォルニアや オレゴンで みつかった エナリアークトスは、りくの ほにゅうの なかまと、今の アザラシなどの あいだの 歯や うごきの とくちょうを もつと いわれます[5]。およそ3000万〜1700万年前の ものです。

もうひとつは、カナダの 北の デボン島の 湖の 土から みつかった プイジラです。およそ2300万年前の ものと される 動物で、長い しっぽを もち、足の ゆびの 骨ほねが ひらたく、水かきが あった らしい と いわれます[6]。

ただし、ひれあしでは ありません。プイジラは「アザラシの そせん」では なく、えだ分かれの とちゅうを 見せる 化石だと 見られて います[8]。

エナリアークトス ── 歯と動きが中間の海生食肉類

エナリアークトスは、アメリカのカリフォルニア州やオレゴン州の地層から見つかった海生食肉類で、陸の食肉類と現生の鰭脚類の中間の歯と運動の特徴をもつとされます[5]。年代は約3000万〜1700万年前と、資料によって幅があります。

プイジラ ── 北極の湖から出た水かき足

プイジラは、カナダ・ヌナブト準州のデボン島で、火口湖の堆積物から見つかった前期中新世(約2300万年前ごろ)の半水生食肉類です。長い尾をもち、手足の比率は陸の食肉類に近く、扁平な指の骨は水かきを示します。ただし、ひれ足ではありません[6]。発見の論文は Rybczynski ら(2009)の『Nature』です[7]。

この化石は、初期の進化に淡水の段階があった可能性と、北極圏が初期進化の中心の一つだった可能性を示すと説明されます[8]。ただし「アザラシの祖先」ではなく、枝分かれの途中を映す化石、という位置づけです。

エナリアークトスは、米国カリフォルニア・オレゴンの地層から報告された海生食肉類で、陸上で暮らすクマ類などの仲間と、現在の鰭脚類の中間にあたる歯や動きの特徴をもつ。最古のエナリアークトス類の下あごは30.6〜27.4 Ma(約3060万〜2740万年前)の地層から出ており、年代は資料により幅がある[5]。

プイジラ(Puijila darwini)の骨格は、カナダ・ヌナブト準州デボン島の火口湖堆積物から出た前期中新世(約2300万年前ごろ、資料により約2000〜2400万年前の幅)のものだ。長い尾、陸生食肉類に近い四肢の比率、水かきを示す扁平な指骨をもつが、ひれ足ではない[6]。発見者はRybczynski、Dawson、Tedfordらだ(Rybczynski et al. 2009, Nature 458:1021)[7]。

淡水の段階があった可能性と、北極圏が初期進化の中心の一つだった可能性が論じられている。ただし、プイジラは祖先そのものではなく、枝分かれの途中を映す化石と位置づけられる[8]。「アザラシはカワウソから進化した」という読み方もできない。姉妹群はイタチ上科全体だ[4]。

6. 自分でも たしかめて みよう

6. 自分でも調べてみたくなったら

6. 出口 ── 原典と展示で確かめる

どうぶつの ずかんで、アザラシと アシカと セイウチの 耳や あしを 見くらべ、水ぞくかんや 動ぶつえんでは うごきかたを 見て みましょう。ずかんは、ページの おくの 「なかま わけ」も ひらいて みます。

むかしの 人も、同じ ところを 見て、「べつの そせん」と かんがえた のかも しれません。あなたは、どこが ちがって、どこが にて いると おもいますか。

プイジラや エナリアークトスの 化石は、図かんや はくぶつかんの 本で さがせます。

図鑑でアザラシ・アシカ・セイウチの耳や手足、体のつくりを見くらべ、水族館や動物園では動き方を見てみましょう。「どこがちがうのか」「どこが似ているのか」を、自分の目で書き出します。

むかしの研究者も、似たような場所を見て、別の祖先だと考えたのかもしれません。図鑑の「分類」のページには、いまの考え方がのっています。

プイジラやエナリアークトスは、図鑑や博物館の本で、化石の復元図を探してみましょう。

原典に当たるなら、プイジラの発見はRybczynski et al. (2009), Nature 458:1021、分子系統はArnason et al. (2006), Molecular Phylogenetics and Evolution 41(2):345–354が手がかりになる。Wyss (1987), American Museum Novitates 2871の要旨はAMNHのデジタルライブラリで読める。まず題名や著者名を大学図書館や公開データベースの検索に入れ、要旨から読むとよい。

読むときは、「どの証拠が、どの仮説を、どこまで支えるか」に注目するとよい。二系統説のように、複数の資料が示す結論でも、細部には食い違いが残ることがある。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:学術誌の論文要旨、解説記事、科学ニュースなどを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Frontiers in Ecology and Evolution (2019) 鰭脚類の系統(化石と分子)に関する論文。https://frontiersin.org/articles/10.3389/fevo.2019.00457/full (二系統説の内容、分岐年代の推定について)
  2. Wyss (1987) American Museum Novitates 2871(要旨)。https://digitallibrary.amnh.org/items/edb3572e-e96b-414c-ab7c-00a07d847ce3/full (耳の骨の再検討と二系統説の根拠について)
  3. Arnason et al. (2006) Molecular Phylogenetics and Evolution 41(2):345-354(要旨)。https://lup.lub.lu.se/record/386660 (分子データによる単系統の支持、セイウチの位置について)
  4. Zoological Science 23(2) (2006) 核DNA配列による鰭脚類の系統。https://complete.bioone.org/journals/zoological-science/volume-23/issue-2/zsj.23.125/Evidence-from-Nuclear-DNA-Sequences-Sheds-Light-on-the-Phylogenetic/10.2108/zsj.23.125.full (イタチ上科との共通祖先について)
  5. Poust & Boessenecker (2018) Acta Palaeontologica Polonica 63(1)。https://app.pan.pl/article/item/app003992017.html (エナリアークトスについて)
  6. ScienceDaily (2009) プイジラ発見の紹介(Rybczynski et al. 2009, Nature 458:1021)。https://sciencedaily.com/releases/2009/04/090422132832.htm (プイジラの特徴と発見場所について)
  7. Rybczynski, Dawson, Tedford et al. (2009) A semi-aquatic Arctic mammalian carnivore from the Miocene epoch and origin of Pinnipedia. Nature 458:1021–1024。https://doi.org/10.1038/nature07985 (プイジラの発見論文。ScienceDaily・National Geographicの解説の元)
  8. National Geographic Phenomena (2009) プイジラの解説。https://www.nationalgeographic.com/science/article/puijila-the-walking-seal-a-beautiful-transitional-fossil (プイジラの位置づけについて)

なおした ところ

更新履歴

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