1. かうと、どくは どう なるの?
1. 飼育したカエルの皮膚から、毒が見つからなかった
1. 1994年のパナマの飼育実験 ── 室内で育てた個体にアルカロイドがない
ヤドクガエルは、ジャングルに すむ 小さな カエルです。皮ふから、どくを 出す ものも います。
ところが、人が 飼育した カエルは、ようすが ちがいました。パナマで、へやの 中の 入れものに はねの ない ショウジョウバエだけを あげて そだてた ところ、皮ふから どくの もとに なる 物が 見つかりませんでした[1]。
ただし、これは 1つの しゅるいの カエルの 研究です。「かうと かならず どくが ゼロに なる」と 言いきる ことは できません。
では、どくの もとは どこから 来るのでしょう。
ヤドクガエルは、中南米の森にすむ小さなカエルで、皮膚に毒をもつ種類がいます。その毒の正体は、アルカロイドと呼ばれる物質の仲間です。
1994年の論文によると、パナマで室内の飼育容器に入れ、羽のないショウジョウバエだけで育てたヤドクガエルの皮膚からは、アルカロイドが見つかりませんでした[1]。この結果から、毒の源は野生での食べ物ではないかと考えられるようになりました。
ここで注意したいのは、「毒が弱くなる」と「毒がゼロになる」は別の話だということです。この研究が示したのは、飼育容器で育った個体からは検出されなかった、という一例です。野生から連れてきたカエルが、何か月でどのくらい弱まるのかは、この資料からは分かりません。
では、食べ物が毒を決めているのなら、野生の親から生まれた子どもを別々の食べ物で育てたら、どうなるのでしょうか。
ヤドクガエル(Dendrobates auratus)では、パナマの室内テラリウムで羽のないショウジョウバエだけを与えて育てた個体の皮膚にアルカロイドが認められなかったと、1994年のDalyらの論文の要旨は述べている[1]。この結果は、皮膚の毒が野生の餌に由来するという仮説を支える。
ただし、読み方には注意が要る。検出されなかったのは飼育下で育った個体で、野生個体が飼育で時間とともにどう変わるかを測った数字ではない。「弱くなる」「ゼロになる」の区別は、この資料だけでは決められない。しかも、これは1種についての報告だ。
では、毒が食物に由来するなら、野生の親から生まれた個体を別の食物で育てれば、結果は分かれるはずだ。それを試した実験が次の章にある。
2. 野生の 親の 子を、べつの えさで そだてたら?
2. ハワイの実験 ── 野生の親の子でも、育ち方で毒が分かれた
2. 野生親の子を室内・屋外で育てる ── 異なる餌、異なる皮膚成分
ハワイには、人が もちこんだ ヤドクガエルが います。その 野生の 親から うまれた 子を、へやの 中と 外の 2つの ばしょで そだてた 研究が あります[2]。
へやの 中の グループは、コオロギと ショウジョウバエだけを 食べました。外の グループは、野生の シロアリなどを 食べました。
けっかは、はっきり 分かれました。へやの 中の 子には、どくの もとが ありませんでした。外の 子は、親と にた ものを もって いました[2]。
どちらも、野生の 親から うまれた 子です。ちがいには、食べた えさが かかわって いる ようです。
ただし、これは 大学の しょうかい記じを 読んで 知った 内ようです。くわしい 数は、もとの ろんぶんで たしかめたい ところです。
ハワイには、人間が持ちこんだ野生のヤドクガエルがいます。その子どもを、室内と屋外で別々の食べ物を与えて育てた実験が、大学の紹介記事にあります[2]。
室内でコオロギとショウジョウバエだけを食べて育った子は、アルカロイドをもちませんでした。屋外で、野生のシロアリなどを食べて育った子は、親と似たアルカロイドをもっていました[2]。
この実験では、どちらも野生の親から生まれた子が比べられています。親の違いだけでは説明しにくくなります。ただし、場所や食べ物以外の条件も関係するかもしれません。
ただし、ここで読んだのは大学の紹介記事で、原論文の本文ではありません。くわしい数字や条件は、原論文で確かめる必要があります。
実験は飼育の場でのものでした。では、野生のカエルは、実際にはどんな物を食べているのでしょうか。
ハワイに導入された野生個体(捕獲された親)から生まれた子を、室内でコオロギとショウジョウバエだけで育てた群と、屋外で野生のシロアリなどを食べて育った群に分けると、前者はアルカロイドをもたず、後者は親と似たアルカロイドをもったという[2]。原論文はSaporitoらの2010年の研究とみられるが、ここで確認できたのは大学による紹介記事までだ。
この比較では、どちらの群も野生の親から生まれた子で、皮膚成分の差は親の違いだけでは説明しにくい。育った環境、とくに食物が関係した可能性を示す。ただし室内と屋外では食物以外の条件(温度、湿度、ほかの生物との接触など)も違いうるので、因果を食物だけに結ぶには、条件を見る原論文での確認が要る。
では、野外のカエルは実際に何を、どのくらい食べているのか。次の章で、胃の中身の調査を見る。
3. 森の カエルは、なにを 食べて いるの?
3. 森の胃の中身 ── 8割以上がアリとダニ
3. エクアドルの野外調査 ── 胃内容の8割以上が節足動物の2群
エクアドルの 森で、ヤドクガエルの なかまの おなかの 中身が 調べられました。いちばん 多かった のは、アリと ダニです。あわせて 8わり いじょうでした[3]。
アリも ダニも、とても 小さな 生きものです。カエルは、そのまま ぱくっと 食べると 思われます。
この 研究者は、カエルを 3か月 かって、コオロギと ショウジョウバエだけを あげても みました。すると、どくは ほとんど 出ませんでした[3]。
ここで 気を つけたい ことが あります。8わりと いう 数は、この カエルと、しらべた 3つの 場所の ものです。ヤドクガエルぜんぶに あてはまる 数では ありません。
エクアドルの森にすむヤドクガエルの仲間(Oophaga sylvatica)の野外調査では、胃の中身の80%以上が、アリとダニでした[3]。
さらにこの研究では、3か月間コオロギとショウジョウバエだけで飼ったカエルも調べられました。比較用に飼ったこのカエルでは、毒の成分がほとんど出ませんでした[3]。野生のカエルがアリとダニを食べている、飼育して食べ物が変わると毒もほとんど出ない、という2つの結果が重なったことになります。
ただし、80%はこの種の、調べた3つの集団の胃の中身での値です。ヤドクガエル全体の数字ではありません。また、資料は査読前に公開された版なので、あとの査読で数字が変わる可能性もあります。
胃の中にアリもダニもいるのなら、毒をもっているのはどちらなのでしょうか。
エクアドルのOophaga sylvaticaの野外調査では、胃内容の80%以上がアリとダニで占められていた。同じ研究で、3か月間コオロギとショウジョウバエだけで飼育した対照のカエルでは、アルカロイドを示すクロマトグラムのピークがほとんど現れなかった[3]。
この数字には条件がつく。80%は、この1種・この3集団の胃内容での値で、ヤドクガエル全般には広げられない。また出典はbioRxiv(査読前の公開版)で、査読を経た版が出れば数字や解釈が変わりうる。
野外の食物の中心がアリとダニなら、毒の起源もそこにあるのではないか。では、その2群のどちらが毒をもつのか。
4. どくの もちぬしは、とても 小さな 生きもの
4. 毒の持ち主として見つかった、アリとダニ
4. 毒の供給源の候補 ── ササラダニ80種超と、ヤマアリ亜科のアリ
カエルが 住む 森の 土には、ササラダニという 小さな ダニが います。2007年の 研究で、このダニから 80しゅるい いじょうの どくの もとが 見つかりました。そのうち 42しゅるいは、カエルの 皮ふにも ありました[4][8]。
アリでも 見つかった ことが あります。パナマの ヤマアリの なかまから、カエルの どくと 同じ ものが 見つかりました。500こ しらべた うちで、この アリだけ だったと いいます[5]。
ダニは、アリより 大事な もとかも しれないと いわれて います[4]。でも、どちらが おもか は、まだ はっきり して いません。
2007年のPNAS論文では、Oophaga pumilioの生息地の土にすむササラダニから、80種類以上のアルカロイドが見つかりました。そのうち42種類は、カエルの皮膚にもありました[4][8]。
これは、ダニの毒の半分強がカエルにもあった、という意味ではありません。「80種類以上」の中の42なので、割合にすると最大で5割ほどです。ダニにあってカエルにはない毒も、別にあります。
アリについては、パナマのヤマアリの仲間から、ピュミリオトキシンという毒の成分が見つかった報告があります。調べた約500の標本のうち、この成分が出たのはこのアリだけで、同じ成分がカエルの胃にもありました[5]。ただしこの500という数字は、紹介記事によるものです。
ダニはアリより大事な供給源かもしれない、と書かれています[4]。ただ、種や地域によって違い、決着はついていません。
2007年のSaporitoらのPNAS論文は、Oophaga pumilioの生息地の土壌にすむササラダニから、80種類以上のアルカロイドを検出し、うち42種類がカエルの皮膚にもあったと報告した[8]。この論文に基づく紹介記事は、ダニがアリより重要な供給源かもしれないと述べる[4]。
42÷80は約0.53だが、「80種類以上」の分母は下限なので、割合は最大でも5割強にとどまる。ダニにあってカエルにない化合物が約40種類あることにもなる。「ダニの毒がそのままカエルにある」とは読めない。
アリでは、パナマのヤマアリ亜科(formicine)のアリからピュミリオトキシン類が見つかり、同じ物質がカエルの胃にもあった。約500の節足動物サンプルのうちこの物質が出たのはこのアリだけとされる[5]。ただし、500という数は紹介記事の要約によるもので、原論文では照合していない。
供給源がダニかアリかは種・地域で異なり、決着していない。では、取りこんだ毒は、そのまま皮膚にしまわれるのか。
5. もらった どくは、そのまま なの?
5. 毒は、そのまま蓄えられるのか ── 作りかえる種と、森ごとのちがい
5. 取りこみと修飾 ── ピュミリオトキシンの水酸化と、集団間の変異
カエルは、食べた どくの もとを、そのまま 皮ふに ためる ことが 多いです。けれど 一部の しゅるいは、体の 中で べつの ものに 作りかえます。
ある 研究で、3つの しゅるいの カエルが、あたえられた どくの もとの 8わりほどを、もっと 強い ものに 作りかえました[6]。ただし、どくを 1から 作るのでは ありません。
また、同じ しゅるいの カエルでも、森が ちがうと どくの 組み合わせが かわります。その 森で 食べられる アリや ダニに 合って いるからです[4]。
森に よって 食べられる アリや ダニが ちがうので、皮ふの どくの 組み合わせも ちがう ことが あります。
2003年のPNAS論文によると、2種類のアルカロイドを与えたところ、多くの種はそのまま皮膚に蓄えました。しかしDendrobates属の3種は、ピュミリオトキシン(+)-251Dの約80%を、より強い(+)-267Aに作りかえていました[6]。
つまりカエルは、毒を食べ物から受け取るだけでなく、一部の種は体の中で形を変える力ももっています。ただし、毒を一から作るわけではありません。
もうひとつ、毒の種類と量は、種によって違い、同じ種でも生息地によって皮膚の成分の組み合わせが違います。その地域で食べられるアリやダニの種類と対応している、と説明されます[4]。
森ごとに食べられるものが違うと、皮膚の毒の組み合わせも違う場合があります。では、金色の強い毒をもつカエルも、同じ仕組みなのでしょうか。
毒の取りこみは、単純な貯蔵ではない。2003年のDalyらのPNAS論文の要旨によると、2種類のアルカロイドを与えた実験で、多くの種はそのまま皮膚に蓄えたが、Dendrobates属の3種は、ピュミリオトキシン(+)-251Dの約80%を立体選択的に水酸化し、より強い(+)-267Aに変えた[6]。
変えるのは一部の種で、毒を一から合成するわけではない。取りこみ・貯蔵・修飾が種ごとに違うことになる。
集団間の変異も、同じ流れで読める。同じ種でも生息地ごとに皮膚のアルカロイドの組み合わせが違い、食べられる節足動物の種類と対応するという[4]。毒の組み合わせには、場所ごとの食物と対応する部分があることになる。
では、金色のモウドクフキヤガエルのような、さらに強い毒の場合はどうか。
6. いちばん つよい どくの もとは、なんの 虫?
6. 金色のカエルの毒の食べ物は、甲虫かもしれない
6. バトラコトキシンの供給源 ── ニューギニアの甲虫と、南米の未確定
金色の モウドクフキヤガエルは、とても つよい どくを もちます。この どくの もとは バトラコトキシンと いいます。
ニューギニアでは、ピトフーイと いう 鳥も、同じ どくを もつ ことが 知られて います。この 鳥の どくの もとは、小さな かたい はねの 虫だと されます[7]。
南米の カエルも、近い なかまの 虫を 食べて いるのでは、と 考えられて います。でも、まだ きまった 話では ありません[7]。
人が かって うまれた この カエルの 皮ふからは、この どくが 見つかりませんでした[7]。
金色のモウドクフキヤガエル(Phyllobates属)は、バトラコトキシンという強い毒をもちます。ニューギニアでは、毒をもつ鳥ピトフーイの毒の元になっている甲虫(Choresine属、ジョウカイモドキ科)が見つかっています[7]。
南米のカエルの供給源は、この甲虫の近い仲間だと考えられていますが、確定ではありません[7]。それでも、飼育下で生まれたP. terribilisの皮膚からバトラコトキシンが検出されなかった、という点は、ほかの毒ガエルの結果と同じ向きです[7]。
鳥とカエルという離れた生きものが、どちらも小さな虫から毒を受け取っているのかもしれない、という見方は、毒の持ち主を探す研究の面白さを見せてくれます。
金色のモウドクフキヤガエル(Phyllobates属)の強い毒バトラコトキシンは、ニューギニアでは鳥(ピトフーイ)の毒の元として、Choresine属(ジョウカイモドキ科)の甲虫から高濃度で見つかっている[7]。南米のカエルの供給源は、近縁の甲虫と考えられているが、確定していない。飼育下で生まれたP. terribilisの皮膚からバトラコトキシンが検出されなかった点は、アルカロイドの例と同じ向きだ。
ここまでの例では、鳥では甲虫が供給源の候補として見つかっており、カエルでも毒が食物に由来することが示唆されている。一方、各カエルの毒を作る生物が特定できているのは一部で、残りは調べ中だ。
7. せつめいばんで、えさの らんを さがそう
7. 展示や図鑑で、カエルの「食べ物」の欄を探してみる
7. 展示の説明・図鑑の飼育の項を、この記事の問いで読み直す
どうぶつえんや 水ぞくかんで、ヤドクガエルの せつめいばんを 見る ときが あれば、「えさ」の ところを さがして みましょう。
そこに 書いて ある えさは、森で 食べる ものと 同じでしょうか。それとも ちがうでしょうか。
どくの 話が 書いて あれば、この メモの 話と 見くらべて みましょう。書いて なければ、「食べ物」の らんを 見るだけでも だいじょうぶです。ずかんでも、できます。
動物園や水族館にヤドクガエルがいる機会があれば、説明板の「食べ物」の欄を探してみてください。図鑑でもできます。
野生で食べるものと、飼育で与えているものは同じでしょうか。毒についての説明があれば、この記事の話とどうつながるかを考えてみてください。なければ、「食べ物」の欄を見比べるだけでも手がかりになります。
もうひとつの問いは、「アリとダニのどちらが主な供給源か」です。種や地域で答えが違う、まだ決着していない問いだと、資料には書かれていました。
この記事の問いで、展示の説明や図鑑を読み直すと、書かれていることとそうでないことが見えてくる。野生の食物と飼育の餌の書き分けがあるか、毒の説明があるか、などだ。
図鑑や展示を2つ以上見比べて、野生の食べ物と飼育の餌がどう書き分けられているかを探してみるとよい。
残っている問いは、アリとダニのどちらが主な供給源かが種・地域で違うこと、モウドクフキヤガエルのバトラコトキシンの南米での供給源が確定していないことだ。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
この記事で使った資料です。英語の資料が多く、要旨や紹介記事までしか読めていないものがあります。
- Daly et al. (1994) J Chem Ecol. Smithsonian Research Online の論文情報(要旨) https://research.si.edu/publication-details/?id=104170 (1章の飼育個体の分析)
- Lake Forest College「Effects of Dietary Specialization on Chemical Defense of Poison Dart Frogs」 https://www.lakeforest.edu/news/effects-of-dietary-specialization-on-chemical-defense-of-poison-dart-frogs (2章のハワイの実験の紹介)
- bioRxiv 031849(アリとダニの多様性と毒の変異、査読前の版) https://www.biorxiv.org/content/10.1101/031849v1.full-text (3章の胃の中身と対照の飼育)
- Mongabay「Why poison dart frogs are poisonous」(Saporito et al. 2007 PNAS の紹介) https://news.mongabay.com/2007/05/why-poison-dart-frogs-are-poisonous/ (4・5章のダニと地域差)
- Science News「Toxin Takeout」 https://www.sciencenews.org/?p=36595 (4章のアリの報告)
- Daly et al. (2003) PNAS(PMC196932) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC196932 (5章の取りこみと作りかえ)
- Dumbacher et al. (2004) PNAS(Smithsonian Repository) https://repository.si.edu/handle/10088/176 (6章の甲虫と鳥・カエル)
- Saporito et al. (2007) PNAS(PMC1885597) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1885597 (4・5章のダニと地域差の原論文)
なおした ところ
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