1. ふぐの くちは、どんな かたち?
1. 釣り糸も噛み切るフグの歯は、4枚の板
1. 釣り糸を噛み切る口 ── 板歯4枚のくちばし
ふぐの くちを 見ると、うえと したに、いたのような はが あります。うえに 2まい、したに 2まい、ぜんぶで 4まいです。これが つよい くちばしのように なって います[1]。
この はは、つりいとも かんたんに かみきって しまうほど です[1]。つりで ふぐが かかった ときに、ゆびを くちに ちかづけない ほうが いい わけです。
こんなに かたい はで、ふぐは なにを たべて いるのでしょう。じつは、おおきさに よって たべる ものが ちがって きます。
2. ちいさい ふぐと おおきい ふぐで、たべものは ちがうの?
2. トラフグは、大きくなるにつれて食べるものが変わる
2. 稚魚から成魚へ ── トラフグの食性は成長でどう変わるか
トラフグの あかちゃんに ちかい ちいさな ころは、うみの そこに いる ちいさな えびや かにの なかまを たべます[1]。
おおきく なると、たべる ものが ふえます。えびや かに、いか、さかなも たべるように なります[1]。
ちなみに、これは トラフグの はなしです。ぜんぶの ふぐが おなじ ものを たべる とは かぎりません。
ところで、ふぐは どくで 有名です。この どくは、どこから きたのでしょう。そこで、どくのない えさで そだてた ふぐの はなしを 見て みます。
3. どくのない えさで そだてると、どうなるの?
3. 毒のない餌で育てたフグは、毒を持たなくなった
3. 無毒餌による人工飼育 ── 毒は食べ物から来るという考え
ふぐの どくは、「テトロドトキシン」と いう もので、ふぐは じぶんで つくって いるのでは ないようです。たべものから てに いれて いる、と かんがえられて います[3]。
たしかめた じっけんが あります。どくの ない えさだけで そだてた ふぐは、どくが ありませんでした。この どくの ない ふぐに、どくを くちから あげると、また どくを もつ ように なりました[4]。
いちど たまった どくは、すぐには へりません。しものせきの すいぞくかんの しりょうでは、どくの ある えさを 数ねん たべなくても、すこし へる くらいで からだに のこると 書かれて います[3]。
では、その どくを さいしょに つくる のは、だれなのでしょう。
フグの毒はテトロドトキシン(TTX)といいます。下関海響館の資料は、フグは自分でTTXを作っているのではなく、食物連鎖で濃縮された毒を餌の生きものから得ていると説明しています。1981年にトラフグで行われた実験が報告されているそうです[3]。
長崎大学の研究の要旨も、同じ考え方です。毒のない餌で人工飼育したフグは無毒になること、その無毒のフグにTTXを口から与えると毒を持つことから、フグは毒のある餌の生きものからTTXを取り込んで毒化すると考えられる、と書かれています[4]。
いちど毒がたまると、すぐには消えません。海響館の資料には、毒のある餌を数年食べなくても、多少減るだけで体に残ると書かれています[3]。
この考え方は、養殖にも使われます。2005年の厚生労働省の資料には、毒のある餌の生きものをさえぎる囲い養殖で、毒のないトラフグを育てる提案が載っています。ただし、食品安全委員会は当時、毒になる仕組みは十分に明らかとはいえないと評価しています[5]。「養殖なら必ず無毒」という意味ではありません。
毒が餌から来るのだとして、その毒は、もともと誰が作ったものなのでしょうか。
下関海響館の資料は、フグは自らTTXを生産しているのではなく、食物連鎖を介して生物濃縮された毒を餌生物から得ているとする。一度ためた毒は、毒のある餌を数年食べなくても、多少減るものの体内に維持されるという。1981年のトラフグを使った実験がこの考えの報告に挙げられている[3]。ただし、原著論文は本記事の材料にしていない。
長崎大学の研究要旨は、無毒の餌で人工飼育したフグが無毒となること、その無毒個体にTTXを経口投与すると毒化することを根拠に、フグは有毒の餌生物からTTXを摂取して毒化すると考えられる、と結論する。一方、取り込んだ後の吸収・代謝・排出の仕組みには、不明な点が多いとも述べる[4]。
この考えは、養殖の現場にも関わる。2005年の厚生労働省の資料には、毒を持つ餌生物を遮断する囲い養殖によって、毒のないトラフグを育てる方法が提案されたとある。提案者は、TTXは海中の細菌が作り、食物連鎖でフグに蓄積すると主張した。だが食品安全委員会は当時、毒化の機構は十分に明らかとはいえないと評価した[5]。「養殖なら必ず無毒」とは読めない。
また、毒の強さは種類と部位で大きく異なり、肝臓や卵巣などに高濃度で蓄積されるとされる[9]。毒がどこに集まるかは、体の中で偏りがある。
餌から来る毒なら、その大元はどこにあるのか。次の章でさかのぼる。
4. ふぐの どくを つくる のは、だれ?
4. 長崎大学の要旨は、毒のもとを海の細菌とする
4. 毒の起源 ── 海洋細菌という説明と、ヒラムシの毒の未解明
ながさき だいがくの しりょうには、この どくは、もともと ある しゅるいの うみの さいきんが つくる、と 書かれて います[4]。さいきんは、とても ちいさな いきものです。
ところが、この どくを もっているのは ふぐだけでは ありません。はぜ、たこ、まきがい、ひとで、ひらむし、ひもむしなど、いろいろな いきものに あると いわれて います[4]。
ただし、ひらむしの どくの もとが なにかは、まだ わかって いません。ふぐは、そのうちの ひとつ です。ひらむしは、うすい へらのような からだを した、うみの いきもの です。つぎは、ふぐと ひらむしの かんけいを 見て みましょう。
長崎大学の研究要旨によると、この毒は、もともとある種の海の細菌が作るものだと説明されています。ただし、ヒラムシの毒がどこから来たのかは、次の章で見るように、まだ分かっていません。そして、毒を持つのはフグだけではありません。ハゼ、タコ、巻貝、ヒトデ、ヒラムシ、ヒモムシなど、さまざまな生きものに毒がいるとされています[4]。
厚生労働省の資料に引用された提案も、TTXはビブリオ属などの海の細菌が作り、食物連鎖でフグの体にたまると述べています[5]。ただし、どの細菌がどれだけ作るのかといった細かい部分は、これらの資料からは分かりません。
細菌から始まった毒は、いくつもの生きものを経て、フグにたどり着くのでしょうか。その途中にいる生きものの一つが、ヒラムシです。
長崎大学の研究要旨は、この毒は元来、ある種の海洋細菌によって産生され、フグのほか、ハゼ、タコ、巻貝、ヒトデ、ヒラムシ、ヒモムシなど多様な生物に分布すると述べる[4]。2005年の厚生労働省の資料でも、提案者はTTXをビブリオ属などの海中の細菌が作り、食物連鎖でフグに蓄積すると主張している[5]。
ただし、どの細菌が毒を作るのか、どのくらいの量なのかといった点は、本記事の資料からは分からない。「細菌が作る」は大筋の説明であって、とくにヒラムシのTTXの起源は未解明である(6章)。
毒を持つ生きものが多様なら、フグの毒の運び手も一種類とは限らない。その一つとして具体的に研究されたのが、ヒラムシである。
5. ふぐは、ひらむしの たまごを たべるの?
5. 岩に産みつけられたヒラムシの卵を、フグはかじり取る
5. クサフグとヒラムシ ── 飼育実験と卵の板の摂食
ひらむしは、いわの うえで くらす、へらのような かたちの いきもの です。この ひらむしを、どくの ない くさふぐの こどもに たべさせる じっけんが ありました。すると、くさふぐは どくを もつ ように なりました[6]。
やがいでは、くさふぐが ひらむしが いわに うみつけた たまごの いたを かじりとって たべると いわれます[7]。ひらむしが たまごを うむ じきは、ふぐの はんしょくきより まえです。みずそうの なかでも、ほかの えさより、たまごの いたを このんで たべました[7]。
たまごの いたの どくは、くさふぐの たまごや こどもを まもる ことにも なる、と 考えられて います。ただし、ふぐが こどもの ために たべる、と いう わけでは ありません。けっかとして、どくが こどもに まわる のです[7]。
ところが、ひらむし じしんも どくを もって います。その どくは、どこから きたのでしょう。
毒のない人工飼育のクサフグの稚魚と若魚に、ヒラムシの幼生や成体を食べさせると、フグは毒を持つようになりました。この研究(2018年)は、このヒラムシがフグの毒化に一生を通じて関わると結論しています[6]。
では、野外ではどうでしょうか。2019年の研究によると、クサフグは、オオツノヒラムシが岩に産みつけた卵の板を食べます。この卵の板は、フグが毒を得る供給源の一つになる可能性が示されています。ヒラムシの産卵はフグの繁殖期より前で、野外でも水槽でも、フグは他の餌より卵の板を選んで食べました[7]。
この研究は、卵の板の毒が、クサフグの卵や子どもを守るはたらきも持つ可能性があると述べます[7]。ただし、フグが子どものために食べると言っているわけではありません。食べた結果、毒が子どもにも回る、ということです。
毒を運ぶヒラムシも、毒の持ち主でした。ヒラムシはその毒を、どこから手に入れたのでしょうか。
Scientific Reports(2018)の飼育実験では、毒のない餌(ワムシとアルテミア)で人工授精卵から育てた無毒のクサフグの稚魚・若魚に、ヒラムシ(Planocera multitentaculata)の幼生や成体を食べさせると毒化した。研究はこのヒラムシが、フグの毒化に一生を通じて寄与すると結論する[6]。なおクサフグの学名は、論文中で後にT. alboplumbeusへ変更されたと注記されている。
野外の実態を調べた Toxins(2019)は、クサフグが、ヒラムシ(オオツノヒラムシ)が岩に産みつけた卵の板を食べ、TTXを得る供給源の一つになる可能性を示し、その毒がクサフグの卵・子どもも守るとする。ヒラムシの産卵はフグの繁殖期より前にあたり、野外でも水槽でも、フグは他の餌より卵の板を好んで食べた。野生の卵の板のTTX濃度は、23±16 μg/gである[7]。
注意したいのは、結果と意図の区別である。「子どもを守るために食べる」という意味ではなく、食べた結果として毒が子へも渡る、という説明にとどめている。また、これはクサフグとオオツノヒラムシについての報告で、ほかのフグ全般に当てはまるとは書かれていない。
運び手の一つが分かっても、問いはその前に戻る。ヒラムシの毒は、いったいどこから来たのか。
6. ひらむしの どくは、どこから きたの?
6. ヒラムシの毒の出どころは、まだ分かっていない
6. 毒の出どころは未解決 ── 単純な生物濃縮では説明しきれない可能性
2026ねんに、にほん だいがくが 新しい けっかを 出しました。ひらむしは、いしだたみと いう まきがいなどを おもに たべて います。そこで、どくの ない いしだたみだけを 6かげつ あげて そだてました。それでも、ひらむしから たかい どくが 見つかりました[8]。
ひらむしの どくが どこから くるのかは、まだ わかって いません。たべものだけでは せつめいが つかない かもしれないのです[8]。
もうひとつ。ふぐが ひらむしを たべる ことは、そんなに おおくない かもしれません。でも、ひらむしの どくは とても つよいので、たまに たべても、ふぐの どくに おおきく かかわって いると 考えられて います[8]。
2026年1月に発表された日本大学の研究があります。安定同位体比という方法で調べると、野生のオオツノヒラムシは、イシダタミなどの巻貝やヒザラガイの仲間を主な餌としていました。そこで、毒のないイシダタミだけを6か月与えて育てたところ、それでもヒラムシから高い濃度のTTXが見つかりました[8]。
ヒラムシの毒がどこから来るのかは、まだ分かっていません。この結果は、「食べて濃縮する」だけでは説明できない可能性を示しています[8]。
また、同じ発表は、フグがヒラムシを食べる頻度は、それほど高くないかもしれないとも述べます。ただヒラムシの毒が非常に強いので、まれな捕食でも、フグの毒化に大きく寄与していると考えられる、という見方です[8]。
フグの毒は「食べ物から来る」という説明は、飼育実験の結果に支えられています。しかしその先には、まだ解かれていない問いが残っています。
日本大学生物資源科学部の2026年1月の発表(Marine Biotechnology)は、野生のオオツノヒラムシについて、安定同位体比の分析から、イシダタミなどの巻貝やヒザラガイ類が主な餌であることを示した。さらに、無毒のイシダタミだけを6か月与えて飼育したヒラムシからも、高濃度のTTX(779±469 μg/g)が検出された[8]。
この結果は、ヒラムシの毒を、餌による単純な生物濃縮だけで説明するのは難しい可能性を示す。毒の起源は未解明で、細菌が関わるのか、体内で別の経路があるのかといった点は、本記事の資料から決められない。なお、この779という数字は飼育したヒラムシの体で測った値であり、前の章の卵の板の23とは、測った部分が違う。数字の大小を直接比べる材料にはならない。
同じ発表は、フグによるヒラムシの捕食頻度はそれほど高くない可能性があるが、ヒラムシの毒が非常に強いため、まれな捕食機会でもフグの毒化に大きく寄与していると考えられる、とも述べる[8]。「たまにしか食べなくても、毒は十分に渡る」というのは、頻度と毒の強さを掛け合わせた見方であり、同じ発表も「可能性」「考えられる」という強さで書いている。
こうして、フグの毒は「食べ物から来る」という飼育実験で支えられた部分と、「その食べ物の毒はどこから」という未解決の部分に分かれる。両者を区別して読むことが、この話の読み方になる。
もっと しりたく なったら
フグの口と食べ物を、自分の目で確かめるには
ヒラムシとフグの関係を、原資料にあたって確かめるには
うちで
かがみで じぶんの はを 見て みましょう。ふぐの はは、うえに 2まい、したに 2まいの いた です。じぶんの はと、どう ちがうか くらべて みます。
すいぞくかんで
ふぐの くちの かたちを 見ましょう。おおきな いたのような はが 見えるかも しれません。ガラスごしに、ようすを 見るだけに します。
しらべる ときは
うちに さかなの ずかんが あれば、ふぐの ページを ひらいて、はや くちの かたちを さがして みましょう。ほかの さかなの くちと くらべても おもしろいです。
家でできること
鏡で自分の歯を見て、上の前歯と下の前歯の形を確かめてみましょう。フグの歯は、上に2枚、下に2枚の板状です。家に動物の図鑑があれば、ものを噛み切る歯の形が動物によってどう違うか、フグと見比べてみましょう。
水族館でできること
フグがいる水槽があれば、口もとをよく見てみましょう。歯の形や、口の動きがわかるかもしれません。水槽には触れず、ガラスごしに観察します。
調べるには
家に魚の図鑑があれば、フグのページを開いて、歯や口の形、食べ物の説明を探してみましょう。ほかの魚の口の形と見比べると、フグの口の特徴がはっきりします。
資料を読むなら
環境省の「せとうちネット」と下関海響館のフグ毒の資料は、日本語で、歯と食性、毒の由来を確かめられる。クサフグとヒラムシの関係は、Scientific Reports(2018)とToxins(2019)の論文、日本大学の2026年1月の発表で読める。
読み方のコツ
どの資料が「トラフグ」を、どの資料が「クサフグ」や「オオツノヒラムシ」を扱っているかを、まず見分ける。次に、飼育実験で分かったことと、野外の観察で分かったことを分けて読む。最後に、資料自身が「可能性」「考えられる」と書いている部分を、断定に読みかえないようにする。読んだ文に「可能性」「考えられる」があれば、印をつけておくとよい。
気をつけること
釣りで偶然フグがかかったときは、歯が強いので指や手を口に近づけない。毒の話は、あくまで生きものの暮らしを知るための内容で、家庭で扱う方法の案内ではない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
フグの歯と食性は環境省とダイワの資料、毒と食べ物の関係は下関海響館・長崎大学・厚生労働省の資料、ヒラムシの話は3本の論文・研究発表による。論文は公開されている要旨や概要をもとに読んでいる。
- 環境省 瀬戸内海環境情報基本整備事業 せとうちネット「フグ」 https://www.env.go.jp/water/heisa/heisa_net/setouchiNet/seto/g1/g1chapter1/ikimono/fugu.html (歯の形・トラフグの食べ物)
- ダイワ 水産学「トラフグ」 https://www.daiwa.com/dyfc/manabu/suisangaku/torahugu/ (歯ができる時期・補助的な情報)
- 下関海響館「フグ毒」の資料 https://www.kaikyokan.com/pdf/fugu_poison.pdf (毒は餌から得る・体内に残る)
- 長崎大学 水産学部 研究論文要旨 https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/gakusai/summary/h21/1004_seisan_sui/file/seisan-sui207ronbun.pdf (無毒の餌での飼育・毒の起源)
- 厚生労働省「嬉野町提案 トラフグ肝」に関する資料(2005) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000165538.pdf (囲い養殖の提案と評価)
- Scientific Reports (2018) ヒラムシとクサフグの毒化の研究(PMC6098040) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6098040/ (ヒラムシを食べさせる飼育実験)
- Toxins (2019) クサフグとヒラムシの卵の板の研究(PMC6669758) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6669758 (卵の板の摂食)
- 日本大学 生物資源科学部 プレスリリース(2026年1月9日) https://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~NUBScommon/release/20260109.pdf (ヒラムシの餌と毒の起源)
- 厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:フグ毒 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/animal_det_01.html (毒の強さは種類と部位で違う)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 中学生向けの題名を、日常の疑問が先に来る形に見直した。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。