1. おおきな ハクチョウは、おにくを たべるの?
1. 7キロを超える鳥の食べ物は、ほとんど植物
1. 体重7〜10kgの鳥が支える、植物中心の食生活
ハクチョウの なかまは、カモの なかまの なかでは いちばん おおきい ぐらいの とりです。オオハクチョウは、からだの ながさが 140センチくらい、おもさは 7キロから 10キロほど。とても おもい とりです[2]。
これだけ おおきいと、さかなや むしを たくさん たべそうです。でも ふゆの ハクチョウが たべるのは、おもに くさの は、くき、ねっこ、みずの なかの くさ、たんぼに おちた いねの おちぼです[1]。むしなどを たべる ことも ありますが、ふだんの ごはんは しょくぶつが ちゅうしんです[1]。
では、みずの なかの くさや ねっこを、あの ながい くびで どうやって とるのでしょう。
2. ながい くびを みずに いれて、さかだちも するの?
2. 長い首を水に入れ、深いところでは逆立ちする
2. 水面から逆立ちまで ── 首の長さを使った採食
ハクチョウの くびは、からだに くらべて とても ながいです。この くびが、ごはんを とるときに やくに たちます。
みずの ひょうめんに うかんで いる くさは、そのまま くちばしで たべます。すこし ふかい ところに ある くさは、ながい くびを みずに いれて とります。もっと ふかい ところでは、おしりを うえに あげて、さかだちを するように して たべます[2]。
みずうみで ハクチョウが おしりを うえに むけて いたら、ごはんの さいちゅうかも しれません。
ところで、みずの なかの くさの どこを、ハクチョウは たべて いるのでしょう。
湖で、ハクチョウが体の後ろ半分を水面に出して、首を水中に突っこんでいる姿を見ることがあります。あれは、水草などの水生植物を主食とするハクチョウ類の、食事の姿です。水面にあるものはそのまま食べ、首が届く深さなら首を水に入れます。さらに深いところでは、逆立ちして餌をとります[2]。
水に浮かんだまま首を入れたり、逆立ちしたりする動きが、この食べ方の特徴です。
では、水の中で何を採っているのでしょうか。日本の湖で調べた研究があります。
ハクチョウ類は水生植物を主食とし、水面にあるものはそのまま食べるが、長い首を水中に入れ、深い所では逆立ちして餌をとる[2]。
採食の方法が分かると、次に知りたくなるのは、水中のどの部分が実際に食べられているかである。日本の湖で食物の内容を調べた研究がある。
3. みずうみでは、ねっこを ほって たべるの?
3. 湖では、マコモの地下茎が食べ物の半分以上を占めた
3. 12の湖の調査 ── マコモの地下茎と種による食べ方の差
にほんの 12この みずうみで、ハクチョウたちが なにを たべて いるかを しらべた けんきゅうが あります。しらべたのは、1997ねんの 11がつから 1998ねんの 2がつまでです[3]。
その けっか、コハクチョウ、オオハクチョウ、ヒシクイと いう 3しゅの とりの、それぞれの たべものの はんぶん いじょうは、マコモと いう くさの 地下茎でした。ちかけいとは、つちの なかに ある、ねっこのような くきの ことです[3]。
おなじ ちかけいでも、とりかたは ちがいます。オオハクチョウは おもに みずの なかで、コハクチョウは おもに きしで たべて いました[3]。
ヨシや ガマは、ほとんど たべられて いませんでした。みずうみの くさなら なんでも いい、と いう わけでは ないようです。
日本の12の湖で1997年11月から1998年2月に行われた調査では、コハクチョウ、オオハクチョウ、ヒシクイ類の食べ物の50%以上が、マコモという水辺の植物の地下茎でした[3]。地下茎とは、土や水底の泥の中にある、根のような茎のことです。
この「50%以上」は、3種それぞれの食べ物の中での割合です。同じ湖にあっても、ヨシやガマはほとんど食べられていませんでした。水辺の植物でも、食べ物として選ばれるものと選ばれないものがあるようです。
また、同じ地下茎でも、食べる場所は種によって違いました。オオハクチョウは主に水中で、コハクチョウは主に岸で食べていたと報告されています[3]。
湖ではそうだとして、田んぼのほうはどうなのでしょうか。
渡辺ほか(2008)は、日本の12の湖で1997年11月〜1998年2月に、コハクチョウ・オオハクチョウ・ヒシクイ類の食物を調べた。その結果、3種の食物の50%以上をマコモ(学名 Zizania latifolia)の地下茎が占めていた[3]。
ここで注意したいのは、この割合が「3種それぞれの食物のうちの割合」であり、冬のハクチョウの食事すべてを表した数字ではないことだ。調べたのは湖であり、田んぼで食べる分は別に考える必要がある。実際、同じ湖に生えていたヨシやガマは、ほとんど食べられていなかった。水辺の植物なら何でも食べるのではなく、食べるものを選んでいることになる。
さらに、同じマコモの地下茎でも、オオハクチョウは主に水中で、コハクチョウは主に岸で採っていた[3]。種によって食べる場所が分かれていた。
湖の食べ物が分かったところで、次は田んぼである。
4. たんぼでは、なにを ひろって いるの?
4. 稲刈りのあとの田んぼで、落ち穂と刈り株をさがす
4. 刈り株を選ぶコハクチョウ ── 新潟の水田地帯の例
ハクチョウは、ふゆの たんぼにも あつまります。いねを かりとった あとの たんぼには、おちた いねの ほ(おちぼ)や、くさが のこって います[1]。
にいがたけんの たんぼの ちょうさでは、コハクチョウは、たがやして いない たんぼを えらんで たべて いました。しかも、くさが すくなくて、いねの わらが たくさん ちらばって いる かりかぶの ところを すきな ようでした[4]。
この ちょうさは、にいがたの たんぼの ちほうで しただけの ものです。ぜんこくの どこでも おなじとは いえませんが、たんぼは ハクチョウに とって、たいせつな ごはんの ばしょの ひとつだと わかります。
稲刈りが終わった冬の田んぼには、こぼれた稲の穂(落ち穂)や草が残っています。新潟県の資料も、ハクチョウの食べ物に落ち穂を挙げています[1]。
新潟県の水田地帯で2003年11月から2004年2月に調べた研究では、コハクチョウは耕していない田んぼで、刈り株を選んで食べる傾向がありました。選ばれたのは、草が少なく、稲わらが多く散らばっている刈り株の場所です[4]。
調べたのは新潟の水田地帯です。全国の田んぼで同じ傾向とは言えません。
こうして見ると、湖では地下茎、田んぼでは落ち穂や刈り株と、ハクチョウは場所ごとに食べ物を使い分けています。では、その食べ物が突然減ったらどうなるのでしょうか。
田んぼでの採食は、湖より調べにくい。新潟県の資料は落ち穂を食べ物の1つに挙げているが[1]、新潟県の水田地帯で刈り株の選択を調べた研究では、渡辺・田尻(2018)が2003年11月〜2004年2月に調査し、コハクチョウが耕していない水田で、草が少なく稲わらが多く散らばる刈り株を選んで採食する傾向を報告した[4]。
この結果から、「刈り取り後に耕していない田んぼ」という条件が、冬のコハクチョウにとって採食しやすい環境の1つだと考えられる。ただし調査地は新潟県の水田地帯であり、他の地域や他の年に当てはめるには注意が要る。
湖では地下茎、水田では落ち穂や刈り株という使い分けが見えてきた。そうなると、食べ物が減ったときに何が起きるのかが気になる。
5. たべものが へったら、ハクチョウも へるの?
5. ハスの群落が洪水で減った伊豆沼の冬
5. 62%から11%へ ── 伊豆沼のハス群落と飛来数の変化
みやぎけんの いずぬまと うちぬまで ふゆを すごす オオハクチョウは、おもに ハスの ちかけい、つまり れんこんのような ぶぶんを たべます[5]。
2022ねんの 7がつ、この ぬまで こうずいが ありました。すると、ぬまを おおって いた ハスが、ずっと すくなく なりました。そのあとの ふゆ、ここに きた ハクチョウの かずは、まえの ふゆより へった、と ほうこくされて います[5]。
けんきゅうした ひとたちは、いちばんの りゆうは ハスが へった ことだと かんがえて います。ハクチョウは、たべものの あるところを えらんで、ふゆを すごして いるのかも しれません。
宮城県の伊豆沼・内沼で冬を越すオオハクチョウは、主にハスの地下茎、つまりれんこんのような部分を食べています[5]。
この沼で2022年7月に洪水があり、2021年10月には調査した範囲の62%を占めていたハスの群落が、2022年9月には11%にまで減りました。62%から11%への変化は、およそ6分の1です。そして、2022年11月から2023年1月に来たハクチョウの数は、前の冬より統計的にはっきり少なくなりました[5]。
論文の著者たちは、飛来数が減った主な原因をハスの減少と考えています。この「62%」と「11%」は、伊豆沼のハスが占めた割合です。飛来数が減った原因そのものを測った数字ではなく、原因は著者の推定です。
食べ物は、ハクチョウが毎年どこで冬を過ごすかに関わる大切な条件なのかもしれません。では、人が食べ物を与えるのはどうなのでしょうか。
食べ物の減少と飛来数の変化が同時に報告された例が、宮城県の伊豆沼・内沼にある。この沼で越冬するオオハクチョウは、主にハス(学名 Nelumbo nucifera)の地下茎を食べる。2022年7月の洪水で、伊豆沼のハス群落は2021年10月の62%から2022年9月の11%にまで減った。11÷62はおよそ0.18で、2022年9月の面積は2021年10月の約6分の1になった計算だ。2022年11月〜2023年1月のハクチョウ数は、前の冬より有意に少なかった[5]。
著者はこの減少の主因をハスの減少とみている。ただし、62%と11%はハス群落の占める割合であって、飛来数の減少の原因を直接測った数字ではない。洪水は、ハス以外にも沼の環境を変えたはずで、減少の原因が1つだけとは断言できない。因果の強さには幅を持たせて読む必要がある。
湖の食べ物の量が飛来数に関わるなら、人が食べ物を与える場所ではどうなるのか。次はその話題を見る。
6. ハクチョウに、ごはんを あげても いいの?
6. 餌付けを控えるように呼びかける自治体がある
6. 給餌をめぐる自治体の説明 ── 自力で採る力と感染症への配慮
にほんには、ひとが ごはんを あげる ばしょも あります。にいがたの ひょうこでは、ひとが えさを あげて、せまい みずうみに たくさんの ハクチョウが あつまります[2]。
でも、あおもりけんは、ハクチョウなどの やちょうに えさを あげるのを ひかえるように よびかけて います。りゆうは、じぶんで えさを とれなく なるかも しれないこと、あげた しゅるいの とりだけが ふえすぎること、りくに あがって ねこや くるまの じこに あうかも しれないことです[6]。
みやぎけんも、えさを あげて とりが ひとつの ばしょに あつまると、びょうきが ひろがる おそれがある、と いって います[7]。ハクチョウに あいに いくときは、その ばしょの ルールを まず よんでおくと、あんしんです。
日本の越冬地には、新潟の瓢湖のように人が給餌を行い、狭い水面に多数が集まる場所があります[2]。冬の風物詩として親しまれている一方で、餌付けを控えるよう求める自治体もあります。
青森県は、自分で餌をとれなくなること、与えた種だけが増えすぎること、陸に上がってネコや車の事故にあうおそれがあることを理由に挙げています[6]。宮城県は、2008年4〜5月に北海道・青森・秋田でハクチョウの高病原性鳥インフルエンザが発生したことを受け、給餌で野鳥が一か所に集中すると感染拡大につながるおそれがあるとして、配慮を呼びかけています[7]。
これらの資料は、何を与えてよいかには触れていません。ここまで見てきたように、ハクチョウは自分で湖や田んぼの食べ物を探せる鳥です。そのことを知っておくと、各地の案内の意味が読み取りやすくなります。
日本の越冬地には、瓢湖(新潟県)のように人による給餌が行われ、狭い水面に多数が集まる場所がある[2]。一方で、餌付けの自粛を求める自治体もある。青森県は、自力で餌をとれなくなること、与えた種だけが増えすぎること、陸に上がってネコや車の事故にあうおそれがあることを理由に挙げる[6]。宮城県は、2008年4〜5月に北海道・青森・秋田でハクチョウの高病原性鳥インフルエンザが発生したのを受け、給餌で野鳥が一か所に集中すると感染拡大につながるおそれがあるとして配慮を呼びかけている[7]。
これらの自治体資料は、何を与えてよいか、あるいは悪いかには触れていない。また、伊豆沼の例で見たとおり、ハクチョウの数は自然の食べ物の量にも左右される。人が与える食べ物と自然の食べ物がどう関わるかは、場所ごとに事情が異なる。
湖の地下茎、水田の落ち穂と刈り株、そして給餌をめぐる各地の案内。ここまでの話を、実際に観察する場面へつなげてみる。
7. ハクチョウに あえたら、くびと くちもとを みて みよう
7. ハクチョウに会えたら、首の向きと足もとを見てみよう
7. 観察の手がかりと、確かめられる資料
おうちで できること
ハクチョウが くる ばしょの じちたいの ホームページを、おうちの ひとと いっしょに よんで みましょう。えさを あげて いいかどうかや、ちかづき かたの ルールが のって いることが あります。
でかけて できること
ハクチョウに あえたら、とおくから みて みましょう。くびを みずに いれて いるか、おしりを うえに むけて いるか、たんぼで くびを さげて いるか。どこで なにを たべて いるのか、さがして みます。ちかづき すぎないように しましょう。
家でできること
お住まいの地域にハクチョウの飛来地があるなら、自治体の案内ページを見てみましょう。餌付けについてのお願いや、観察のルールがのっていることがあります。
出かけてできること
ハクチョウのいる湖や田んぼへ行けたら、遠くから、首の向きと足もとを見てみます。首を水に入れているのか、逆立ちしているのか、田んぼで首を下げているのか。食べているのは、水の中のものか、地面に落ちているものか。今回の記事の湖と田んぼの話と、目の前の様子を比べると、見え方が変わるかもしれません。近づきすぎて逃がしてしまわないよう、距離をとってください。
もっと知りたいとき
日本鳥学会誌や山階鳥類学雑誌に載っている論文は、J-STAGEで読めるものがあります。この記事の出典欄にあるマコモの地下茎の研究や、新潟の水田の研究から読み始めてみると、図表で調べ方が分かります。
観察でできること
ハクチョウのいる湖や水田で、遠くから次の3点を見る。(1)首を水に入れているか、逆立ちしているか。(2)水田では、耕した田と耕していない田のどちらにいるか。(3)人が給餌している場所と、していない場所で、集まり方が違うか。この記事で見た報告は、調査した地域・年・種が限られている。自分の観察と比べることで、それぞれの報告が成り立つ範囲が見えてくる。距離をとり、現地の案内に従うこと。
原典に当たるには
マコモの地下茎の研究は日本鳥学会誌57巻2号、水田の研究は山階鳥類学雑誌49巻2号、伊豆沼の研究はWaterbirds 47巻3号に載っている。本文の数字は、これらの論文や自治体の資料にもとづく。調査地や期間の条件は、元の資料で確かめてほしい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の数字は、調査地・調査期間・種が限られた報告です。出典の掲載先を、本文で示した順に並べています。
- 新潟県「ケガをしているハクチョウを見つけたら」https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kankyotaisaku/hakuchouaicho.html (冬のハクチョウの食べ物の基本)
- コトバンク「ハクチョウ」(世界大百科事典ほか) https://kotobank.jp/word/%E3%83%8F%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6-2855792 (体の大きさ、首を水に入れる食べ方、瓢湖の給餌)
- 渡辺ほか(2008)日本鳥学会誌57(2):97-107 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo/57/2/57_2_97/_article/-char/en (12の湖でのマコモの地下茎の割合)
- 渡辺・田尻(2018)山階鳥類学雑誌49(2):53-62 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jyio/49/2/49_53/_article/-char/en (水田の刈り株を選ぶ傾向)
- Shimada et al. (2025) Waterbirds 47(3) https://complete.bioone.org/journals/waterbirds/volume-47/issue-3/063.047.0304/Lotus-Vegetation-Withered-by-Flooding-in-Summer-Reduced-the-Whooper/10.1675/063.047.0304.full (伊豆沼のハスの減少と飛来数)
- 青森県「ハクチョウ等への餌付け自粛について」 https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kankyo/shizen/hakucho-ezuke.html (餌付けを控える理由)
- 宮城県「野鳥への給餌等について」 https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/sizenhogo/kyuuji.html (給餌と感染症への配慮)
なおした ところ
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