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水オルガンは、水で おとが 鳴るの? 水が して いた ふしぎな やくめ

水オルガンは、水ではなく空気で鳴る ── 水がしていた役目と、古代ローマから出土品までの歴史 古代ローマから出土品までの歴史

水オルガン(ヒュドラウリス)の歴史 ── 水の役割、ウィトルウィウスの記述、アクインクムとディオンの出土品

分野:歴史・文化

ローマの こうていの ネロは、たいへんな ニュースが とどいた あと、えらい 人たちを いえに あつめました。そして 1日じゅう、「あたらしい 水オルガン」の せつめいを して すごした、と 言われて います[1]。

水オルガンは、水で おとを 出す がっきでは ありません。では、水は なにを して いたのでしょうか。その あと、この がっきは どうなったのでしょうか。

古代ローマの皇帝ネロは、反乱の知らせを聞いたあと、重要な人たちを家に集めて、1日じゅう「新しい水オルガン」の説明をして過ごした、とスエトニウスは書いています[1]。

水オルガンは、水の音で鳴る楽器ではありません。水は空気にかかわる役を持っていました。その仕組みと、ローマの贈り物、1990年代に見つかった出土品、そして水を使わなくなった後のオルガンまでをたどります。

ローマ皇帝ネロは、ガリア総督ウィンデクスの反乱の報に接した後、有力者を自邸に集め、新型の水オルガンの説明と講釈で1日を過ごした。伝記作者スエトニウスはそう記している[1]。

水オルガン(ヒュドラウリス)は、水そのものが鳴る楽器ではない。水の役目、ウィトルウィウスの記述、ハンガリーとギリシャの出土品、そして水を使わなくなった後のオルガンまでを、順にたどる。

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1. 水は おとを 出さない。空気を おして いた

1. 音を出すのは水ではない ── 水は空気を押す

1. 音を出すのは空気とパイプ ── 水の役目

水オルガンの 名まえは、ギリシャ語の「ヒュドラウリス」(水の 笛)から きて います。でも、おとを 出すのは、水では ありません。パイプに 空気が ながれて、おとが 鳴ります。

この 記事で あつかう むかしの ヒュドラウリスでは、人の 手で ポンプを うごかして 空気を おくります。水の やくめは、空気を おくる りょうが かわっても、空気を 一ていの つよさで おし出す ことだと、せつめいされて います。(水の ながれで 空気を おくる、べつの 水オルガンも あります。)水の 中に、さかさまに した いれものを おき、そこに 空気を ためます。いれものの 下は あいて いて、水が 空気を おして います[2]。

この がっきを 考えた 人は、ギリシャ人の クテシビオスだと 言われて います。紀元前きげんぜん3せいき ごろ、エジプトの アレクサンドリアで はたらいた ぎじゅつ者です[2]。

やって みよう。せんめんきに 水を 入れて、コップを さかさまに して、ゆっくり しずめて みます。コップの 中の 空気が、水を おしかえして、水が 入って こないのが わかります。これで わかるのは、空気が 場所を とると いう ことです。水オルガンでは、さらに 水が 空気の つよさを たもって います。水オルガンの 水は、この 空気の おしあいを つかって いたのです。

水オルガンは、ギリシャ語で「ヒュドラウリス」(水の笛)と呼ばれます。でも、音を出すのは水ではありません。パイプの中を空気が通って、音が鳴ります。

この記事で扱う古代のヒュドラウリスでは、手動のポンプで空気を送ります(水の流れで空気を送る別方式の水オルガンもあります)。水の役目は、空気に一定の圧をかけ続けることだと説明されています。水を入れた入れ物の中に、下が開いた逆さの空気だめを置きます。ポンプで空気を送り込むと、空気は水に押されます。空気を送る量が変わっても、圧が安定するのです[2]。

発明したとされるのは、アレクサンドリア(エジプト)で活躍した技術者のクテシビオスで、紀元前3世紀のことです[2]。

やってみよう。洗面器に水を入れて、コップを逆さにしたまま、ゆっくり沈めます。コップの中の空気が水を押し返して、水が入ってこないことが分かります。これで分かるのは、空気が場所を取るということです。水オルガンでは、さらに水が空気の圧力を保っています。水オルガンの水は、この空気の押し合いを使っていました。

水オルガン(ギリシャ語でヒュドラウリス、「水の笛」の意)では、発音するのはパイプの中を通る空気で、水は音源ではない。ここで扱う古代のヒュドラウリスは手動のポンプで空気を送る方式で、水の流れで空気を送る別方式の水オルガンとは区別される。水の役目は、空気に一定の圧をかけ続けることだ。空気だめは下が開いた形で水の中に置かれ、水が空気の圧を保つ。送る空気の量が変動しても、圧が安定する[2]。

発明者とされるのは、3世紀BCのアレクサンドリアの技術者クテシビオスで、世界最古の鍵盤楽器と言われる。ただしクテシビオス自身の著作は伝わらず、水オルガンについては、のちの著者(ウィトルウィウスなど)の記述が残っている[2]。

この記事で使っている水の役目の説明は、百科事典的な資料(Wikipedia の「水オルガン」項。『グローヴ音楽事典』の記述を出典に挙げている)による。ウィトルウィウス本人の文は、空気をピストンで送る装置を詳しく書いていて、水の圧力の働きをはっきり説明してはいない[3]。この点は、原典と照らして読む必要がある。

2. 作り方は、ほんの 少し わかって いる

2. ウィトルウィウスが書いた作り方

2. ウィトルウィウス『建築十書』第10書第8章の記述

水オルガンの 作り方は、ローマの けんちくの 本に のって います。書いたのは ウィトルウィウスです。かれは、「くわしくは かけない けれど、できるだけ わかりやすく せつめい する」と 言って います[3]。

その 中の ことを、かんたんに まとめます。

  • 木の だいの 上に、青どう(どうと すずの まざった きんぞく)の はこが あります。
  • はこの 中に、ポンプのような どうぐが あって、空気を おくります。
  • 水の 入った はこに、さかさまの ろうとが あります。
  • おくられた 空気は、ろうとから、パイプに つながる 道へ すすみます。
  • けんばんを おすと、パイプへの 道が あいて、おとが 鳴ります。

ほかにも、イルカの かたちを した どうの ぶひんなどが、本に 出て きます[3]。

水オルガンの作り方は、ローマの建築家ウィトルウィウスが『建築十書』という本に書いています。本人が「ここで簡単に、できるだけ分かりやすく説明する」と断っています[3]。

書かれている部品を、簡単にまとめます。

  • 木の台の上に、青銅の箱と筒があります。筒の底は動かせて、レバーにつながっています。
  • 筒の上に、イルカの形をした青銅の部品があります。鎖がぶら下がり、弁がついています。
  • 水を入れた箱の中に、逆さのじょうごのようなものを置きます。
  • レバーでピストンを上下させ、空気を筒に入れ、じょうごから風箱へ送ります。
  • 風箱から道が通じ、鍵盤を押すと板が動いて穴が開き、パイプに空気が入ります。

ウィトルウィウス自身が「複雑な装置をできるだけはっきり説明した」と書いているほど、むずかしい機械でした[3]。

ウィトルウィウスは『建築十書』第10書第8章で、水オルガンを「ここで省略できない」として簡潔に説明している(第8章1節)。部品の記述は次のとおり[3]。

  • 木の台の上に青銅の箱があり、底が動く青銅の筒がレバーとピンでつながる(1節)。
  • 筒の上にイルカの形の青銅部品があり、鎖で弁がつながる(1節)。
  • 水を入れた箱に「逆さのじょうご」のような部品があり、その首に風箱が載る。風箱には4・6・8本の通路があり、四音・六音・八音の音階に対応する(2〜3節)。
  • 通路ごとに栓があり、板(スライダー)が前後に動いて穴を開閉する。鍵を押すと板が動く(3〜4節)。
  • レバーを上げ下げするとピストンが動き、空気が筒から風箱を通ってパイプへ送られる(5〜6節)。

訳文では、水の役目は「水を箱に入れる」程度で、圧力の説明は第7章のポンプの項に見える。この記述だけで、水が圧を保つ仕組みを図にすることはむずかしい。ウィトルウィウス自身も「複雑な機械をできるだけ明確に説明した」と述べている(6節)[3]。

3. こうていから、しょうぼうだんまで

3. 皇帝の見せびらかしから、贈り物まで

3. ネロの水オルガンと、アクインクムの贈り物

ネロは、水オルガンが 大すきでした。ガリアで はんらんが おきた という しらせの あと、ネロは 大じな 人たちを あつめて、水オルガンの せつめいを しました。そして「ウィンデクスさんの おゆるしが あれば、ぜんぶ しばいごやで 見せよう」と、はんらんの 中心の 人の 名まえを 出して いった、と スエトニウスは かいて います[1]。

水オルガンは、ローマの 競技場きょうぎじょうでも ひかれて いたと 言われます[4]。

ハンガリーの アクインクムという ローマの まちの あとから、水オルガンの こわれた ぶひんが 見つかりました。228ねんに、ガイウス・ユリウス・ウィアトリヌスという 人が、まちの 消防しょうぼうに かかわる 団体だんたいに おくった ものと かかれて います[5]。

水オルガンは、皇帝のお気に入りでもありました。スエトニウスの『ネロ伝』には、反乱の知らせを受けたネロが、有力者を呼んで1日じゅう新型の水オルガンを説明し、「ウィンデクスのお許しを得て、劇場で全部お見せする」と皮肉まじりに言ったことが書かれています(41章)。また、のちに「勝ったら競技会で水オルガンを演奏する」と誓ったとも書かれています(54章)[1]。

水オルガンは、ローマの競技場でも演奏されたとされています[4]。

ハンガリーのアクインクム(いまのブダペスト)では、ローマ時代の水オルガンの部品が見つかりました。青銅板の文字から、228年に、ガイウス・ユリウス・ウィアトリヌスという人が、町の消防に関わる団体へ贈ったものとされています。博物館の説明では、地下室が焼け落ちた際に落ちたようです。1996年には、出土品をもとに復元された楽器が作られ、いまも演奏できるそうです[5]。

スエトニウス『ネロ伝』41章によると、ネロはガリアの反乱の知らせを受けて帰京した後、元老院にも民衆にも話さず、有力者を邸に集めて1日じゅう新型の水オルガンを解説した。そして「ウィンデクスのお許しを得て、劇場で全部披露する」と皮肉まじりに言った。54章には、ネロが、権力を保てたら競技会で水オルガンを演奏すると誓った、とある[1]。

水オルガンは、ローマの競技場(アリーナ)で演奏されたとされる[4]。

1931年にハンガリーの古代都市アクインクム(現ブダペスト)で、水オルガンの部品が見つかった。青銅板の碑文から、228年に、植民市の有力者ガイウス・ユリウス・ウィアトリヌスが消防に関わる団体へ寄贈したものと読まれている。博物館は、建物が包囲されて焼けた際の約250年ごろに地下室へ落ちたと説明している。1996年にオルガン製作者のブダヴァーリ・アッティラが復元し、いまも演奏できる。ただしこの部分は、博物館の解説ページと Wikipedia が出典で、発掘報告の原典は確認できていない[5][2]。

4. ギリシャの 土の 中から 出て きた オルガン

4. 1992年、ギリシャの遺跡で見つかった水オルガン

4. ディオンの水オルガン(1992年)と復元

1992ねんの なつ、ギリシャの ディオンという いせきで、水オルガンの ぶひんが 見つかりました。ほりだしたのは、ディミトリオス・パンデルマリスさんの チームです[6]。

どうの くだや、ぎんの わ、ガラスの かざりが ありました。いつごろの ものかは、書いた ものに よって ちがいます。いまは ディオン考古学こうこがくはくぶつかんに あります[6]。

1995ねんから 1999ねんにかけて、同じ かたちの がっきが 作られました。いまでも、むかしの おとを きく ことが できます[6]。

1992年の夏、ギリシャのディオン遺跡で、水オルガンの部品が見つかりました。発掘の責任者は、ディミトリオス・パンデルマリスです[6]。

銅の管や、銀の輪・帯、ガラスの飾りがありました。年代は紀元前1世紀ごろとされますが、資料によって紀元前3世紀とも書かれていて、はっきりしません。出土品は、ディオン考古学博物館にあります[6]。

1995年から1999年にかけて、同じ形の楽器が復元されました。むかしの音を、実際に聞くことができます[6]。

1992年夏、ギリシャのディオン遺跡で、ディミトリオス・パンデルマリスの発掘隊が、水オルガンの部品を見つけた。銅の管と、銀の輪やガラスの飾りが確認される[6]。

年代は、Wikipedia の項目の中でも紀元前1世紀(発掘の節)と紀元前3世紀(楽器の節)で記述がゆれている。発掘報告(パンデルマリス1992、ギリシャ語)の原典は確認できていない。出土品はディオン考古学博物館に収蔵されている[6]。

復元は1995年にデルフィのヨーロッパ文化センターで始まり、1999年に完成した[6]。

5. 水が いらなく なった あと

5. 水を使わない仕組みへ、オルガンはどう変わったのか

5. 皮ぶくろ・ふいごの登場と、757年の贈り物

水オルガンは、やがて つかわれなく なりました。2せいきごろには、水の ポンプの かわりに、かわの ふくろに 空気を ためる しくみが 出てきた、と 言われます[4]。

757ねんには、東ローマ(ビザンツ)の 皇帝こうていコンスタンティノス5世が、フランク王国の ピピンに、おおきな なまりの パイプの ある オルガンを おくりました。西ヨーロッパに 入った さいしょの オルガンと されます[4]。

812ねんには、ピピンの むすこ シャルルマーニュという 王が、同じような オルガンを たのみました。これが、きょうかいの オルガンの はじまりに なりました[4]。

水オルガンは、やがて使われなくなりました。紀元2世紀ごろには、水の代わりに革の袋で空気を送る仕組みが登場しました。ふいごは東ローマ帝国で、6〜7世紀ごろに使われ始めたとされます[4]。

757年には、東ローマ(ビザンツ)皇帝のコンスタンティノス5世が、フランク王のピピンに、大きな鉛の管のオルガンを贈りました。西ヨーロッパに入った最初のオルガンとされます[4]。

812年には、ピピンの息子のシャルルマーニュ(カール大帝)が、アーヘンの礼拝堂のために同じようなオルガンを求めました。これが、西ヨーロッパの教会音楽でのオルガンの始まりだとされています[4]。

いまのパイプオルガンも、空気をためて、パイプで音を出す点では、水オルガンの子孫です。仕組みは別の記事「パイプオルガンはどうやって鳴るのか」で見られます。

水を使う圧力調整の方式は、2世紀ごろには皮の袋に空気をためる方式に置きかわった、とされる。ふいご(鞴)は、東ローマ帝国で6〜7世紀に現れた[4]。

757年、東ローマ皇帝コンスタンティノス5世がフランク王ピピンに「大きな鉛の管」を持つオルガンを贈った。西ヨーロッパで最初のオルガンとされる。812年にはその子シャルルマーニュがアーヘンの礼拝堂のために同様のオルガンを求めた[4]。ただし757年の贈り物が水オルガンだったかどうかは、資料によって説明が分かれる(一部の資料は水オルガンとする[2])。

現代のパイプオルガンの発音の仕組みは、記事「パイプオルガンはどうやって鳴るのか」(pipe-organ-how-it-sounds)で扱っている。

6. じぶんでも しらべて みよう

6. 自分でも調べてみたくなったら

6. 自分でも調べてみたくなったら

水オルガンの 絵や 写真は、本や インターネットで 見られます。ブダペストの アクインクム博物館はくぶつかんの ページ[5]を おうちの 人と 見て みよう。

コップを さかさまに して、水の 中へ ゆっくり しずめて みよう。空気が 水を おしかえすのが わかります。

アクインクム博物館のページで、復元された水オルガンや出土品の写真を見てみましょう[5]。

コップと洗面器で、逆さのコップを沈めてみましょう。空気が水を押し返すのを、自分の手で確かめられます。ウィトルウィウスの原文(英語訳がインターネットで読めます)で、水の圧力がどこまで書かれているか探すのも、ひとつの方法です[3]。

ウィトルウィウス第10書第8章の英訳(Thayer 版)を読み、水の圧力について、ウィトルウィウスがどこまで書いているかを確かめてみるとよい[3]。

アクインクムとディオンの復元楽器は、博物館のページなどで見られる[5][6]。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:スエトニウスとウィトルウィウスは古代の著作の英訳、museum.hu は博物館の展示紹介、Wikipedia は百科事典(誰でも編集できる)です。水の役目・ディオンの年代・757年の贈り物は Wikipedia に頼っていて、原典・発掘報告・事典の本文は確認できていません。

  1. スエトニウス『ローマ皇帝伝』「ネロ」40〜42章、54章(英訳、Thayer版)。 https://penelope.uchicago.edu/Thayer/E/Roman/Texts/Suetonius/12Caesars/Nero*.html (ネロと水オルガンの話)
  2. Wikipedia “Water organ”。 https://en.wikipedia.org/wiki/Water_organ (クテシビオス、水が空気の圧を保つこと、アクインクム、757年の贈り物。事典の記述を出典に挙げる二次資料)
  3. ウィトルウィウス『建築十書』第10書第8章(英訳、Thayer版)。 https://penelope.uchicago.edu/Thayer/E/Roman/Texts/Vitruvius/10*.html (水オルガンの部品の記述)
  4. Wikipedia “Pipe organ”(歴史の節)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Pipe_organ (皮の袋・ふいごへの移り変わり、757年と812年)
  5. museum.hu「The only Roman water organ of the world」。 https://www.museum.hu/exhibition/12520/The_only_Roman_water_organ_of_the_world (アクインクムの水オルガン、228年、1996年の復元)
  6. Wikipedia “Hydraulis of Dion”。 https://en.wikipedia.org/wiki/Hydraulis_of_Dion (1992年の発掘、復元1995〜1999年)

なおした ところ

更新履歴

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